不安に強い人ほど「比較」しない。超一流が実践する「心を安定させる」秘訣とは!?

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公開日:2018/3/1

『「一瞬で決断できる」シンプル思考』(遠藤保仁/KADOKAWA)

 最近はSNS社会がすっかり定着して、フェイスブックの「いいね!」やツイッター、インスタグラムのフォロワーなどに一喜一憂する人が増えています。しかし、まわりの情報に過度に反応することは、心のストレスとなり、パフォーマンスの低下にもつながります。『「一瞬で決断できる」シンプル思考』(KADOKAWA)の著者であり、サッカー日本代表として長年活躍してきた遠藤保仁選手は、「過度に反応しないことが大切である」と語ります。

■プロセスの抜けた批評は意味がない

 プロサッカー選手という職業柄、さまざまな方面から意見や批評を受けることがあります。テレビや雑誌、ネットなどさまざまなメディアで、記者や専門家が試合や選手の分析をし、コメントしています。そのほかにも、ブログやツイッター、インスタグラムなどSNSを覗けば、一般の人のさまざまな意見が目に入ってきます。選手の中には、そうした情報をよく見ている人もいます。

 そうした情報とうまくつき合うことができればなんの問題もありません。しかし、なかにはコメントや批評に一喜一憂してしまうタイプも少なくありません。もちろん、そのような情報とどう付き合うかは個人の問題ですが、僕の場合、メディアやネットの情報はほぼ見ません。だから、なかには厳しい批判などもあるかもしれませんが、その情報自体に触れていないのです。

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 もちろん、中には鋭い視点をもった記事や的確な分析をした報道もあるかもしれませんが、そればかりに気をとられてはいけないというのが僕の意見です。というのも、それらの多くが結果だけを見て、プロセスを見ていないからです

 たとえば、ある試合が「収穫のない、つまらない試合だった」と批評されていたとします。結果だけ見ればそうかもしれませんが、どんな試合にもチームとしての明確な意図が必ずあります。

「今日は戦術のオプションを増やすために、カウンター狙いのシンプルなサッカーをしよう」という狙いがあったとしたら、そのようなサッカーをチームがめざした結果として「つまらない試合」になってしまっただけです。少なくとも新しい戦術を試すことで、チームとしての収穫はあったことになります。

 あるいは、「ある1本のパスがミスだった」と批判されていたとします。見ている人にとっては、パスミスに見えるかもしれませんが、パスを出した張本人はミスだと思っていないことだってあります。パスの受け手に意図が伝わっていなかったから、パスミスに見えただけかもしれません。それはチームの当事者同士で「あのときのパスは、こういう意図だったんだ」と確認すればすむ話です。

■人の心を動かすのは、情熱や信念といった「魂」の部分

 もちろん、第三者の意見は大事です。チームメイトや監督、関係者から試合中の動きの質について、意見を聞いて気づかされることもたくさんありますからね。実際、メディアの記事よりも、たまたま街で話したおじちゃんや子供からの「あのときのパスはよかった」 「あのとき、なぜこういう動きをしなかったんだ」といった意見のほうがよっぽど意味があるなと思ってしまうこともあります。

 独りよがりにならないためにも、こうした第三者の意見には、できるだけ耳を傾けるように心がけています。インターネットの情報に振り回されるよりも、ずっと有意義だと思います。

 今はインターネットの影響で、いつでも、どこでも情報にさらされるのが当たり前になっているように思います。しかし、情報に振り回されてばかりでは時間のムダになりますし、悪い情報ばかり選んで見てしまえば精神的にもよくありません。いちいち情報に「反応」していては、自分の軸がぶれてしまいます。あくまでも情報は判断材料にすぎません。自分がどう考えるか、どう判断するのかのほうに時間を割いたほうがよいのは、サッカーも人生も同じではないでしょうか。

 人の心を動かすのは、情熱や信念といった「魂」の部分です。それを守るためにも、人の意見に一喜一憂しないことは大切です。僕は、昔からサッカーが大好きで、世界中の誰よりもサッカーがうまくなりたいという一心でこれまでプレーしてきました。人気をキープしたいとか、みんなに好かれたいからという気持ちでプレーをしていたら、自分の「魂」を失うことになります。そんな選手のプレーに人は心を動かされないし、選手の成長は止まってしまいます。

■ワールドカップもJリーグの試合も同じ

 これまでサッカー日本代表の試合を通じて、さまざまな国で試合をしてきましたが、国によって環境はまったく異なります。

 水道や電気などのインフラが十分に整っていない国もあれば、 政情不安で身の危険を感じるような国もあります。道路が年中渋滞していて、試合開始15分前にスタジアムに到着したこともありました。そう考えると、日本よりきれいで、環境に恵まれている国はそうありません。

 サッカー選手はそうしたいつもと異なる環境で、いつも通りのパフォーマンスを発揮しなければならないのですが、案外それがむずかしいと感じる選手が多いようです。ワールドカップ出場がかかった試合や負ければ敗退のトーナメントなどの試合であれば、さらに重圧がかかり、自分のプレーができないという選手もいます。

 僕は昔からまったく緊張することがないタイプです。緊張して心拍数が上がったり、イヤな汗が噴き出したりすることもない。ワールドカップのときも、最初は「おー、これがワールドカップかぁ」という感慨はありましたが、緊張はせずにJリーグの試合と同じテンションで試合に臨んでいました。そんな状態ですから、「日本代表の試合なのにリラックスしすぎだ」と言われることもありました(笑)。

 しかし、どうやら僕はだいぶ珍しいタイプで、ふつうの選手はいつもと異なる環境や大一番では緊張するようです。もちろん、緊張することは悪いことだとは思いませんが、緊張でガチガチになってしまうようでは、安定したパフォーマンスを望むことはできません。 過度な緊張は、筋肉の動きにも影響を与える。緊張した状態でシュートを打てば、力んでしまってあさっての方向にボールを蹴ってしまうこともありえます。

 だからこそ、過度に緊張することなく、リラックスした状態で試合に臨むことによって、安定したパフォーマンスを発揮することができるというのが僕の考え方の基本です。そのためには、自分の置かれた環境に「反応しない」ことが大事になってくるというわけです。

 まわりに「反応」してしまいがちな人に、ひとつだけアドバイスをするとすれば、「比較しない」ことです。ワールドカップとJリーグの試合を比較するから、ワールドカップの本番で緊張してしまうのです。シンプルに考えてみれば、「勝たなければならない」という意味では、どちらも変わりません。

「隣の芝生は青く見える」という言葉の通り、他人と比較すると自分のないものばかりに目がいってしまう。人には、必ず自分にしかない個性があり、他人から見ればそれが素敵に見えるものです。見栄を張らず、弱さも受け入れる。そうすることで、余計なものにとらわれることはなくなるのではないでしょうか。

遠藤 保仁(えんどう やすひと)
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年に横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガを経て、2001年にガンバ大阪に加入。数々のタイトル獲得に大きく貢献し、2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出され、現在もガンバ大阪の中心選手として活躍中。また、U-20日本代表をはじめとし、各年代の日本代表に選出され2002年11月に日本代表国際Aマッチデビュー。その後は、日本代表の中心選手として活躍し3度のワールドカップメンバーに選ばれる。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など数多くの記録を持つ。178㎝、AB型。
遠藤保仁オフィシャルサイト「Yatto7」https://yatto7.jp/
遠藤保仁公式ブログ https://lineblog.me/yasuhito_endo/