幸せ泣き必至!? ブサねこと心優しきおじさまの暮らしを描いたコミックス

マンガ

更新日:2018/3/26

『おじさまと猫』(桜井海/スクウェア・エニックス)

 ねこブームである近年は、ねこをモチーフにした本が多く発売されている。しかし、数多くのねこ本を読み漁ってきた筆者でも本書『おじさまと猫』(桜井海/スクウェア・エニックス)ほど泣けるねこ本には出会ったことがなかった。Twitter発の本書は笑いだけでなく、優しい雫もこぼれる感涙本だ。

 物語はペットショップで売れ残った1匹のねこ「ふくまる」と、妻に先立たれたおじさまが出会うところから始まる。エキゾチックショートヘアのふくまるは、いわゆるブサねこで、日に日に命の値段が下げられていくという残酷な毎日を送っていた。目の前を通り過ぎるお客さんは子ねこや見た目が愛くるしい美ねこを選んでいく。鼻の下に特徴的な模様があるふくまるは「ハナクソがついているように見える」と笑われ、誰にも見向きされない。「自分なんてブサイクだから、誰にも愛してもらえない」。そう嘆くふくまるはいつしか、誰かに愛されることを期待しなくなっていく。しかし、そんなある日、ふくまるを欲しがるひとりのおじさまが現れる。心の底から自分を求め、優しい眼差しを向けてくれるおじさまの温もりや人柄を知っていくうちに、ふくまるも彼を心から愛していくようになるのだ。

■日本特有のペットショップ問題を考えるきっかけに

 本書の見事なところは、フィクションなのにノンフィクション作品を読んでいるかのような感覚を味わえるところにある。ペットブームの影に必ず付きまとうのが、動物の売れ残り問題だ。純血種は見た目を重視されるため、模様が綺麗に出なかったり、品種としての特徴がきちんと現れていなかったりするとセール品扱いになる。筆者自身もセール対象となったねこを購入した経験があるため、作品内でふくまるが抱く孤独感や絶望感は深く胸に突き刺さった。

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 命は平等であるといいながらも、取捨選択しているのは結局私たち人間なのだ。だからこそ、こうした本が広がっていけば、ペットショップの在り方や売れ残り動物への対応が少しずつ優しくなっていくのではないかと感じた。動物の命は人の心を満たすだけの道具ではない。ペットは家族の一員だという考えが幅広い世代に浸透していけば、人と動物が優しく共存していける世界を創っていけるのではないだろうか。

■ふたりが教える「誰かを愛することの大切さ」

 ブサねこ、ふくまるとおじさまが紡ぐ日々は、私たちに「誰かを愛することの大切さ」を教えてくれる。ふくまるのように自分に自信が持てないと、愛されること自体を端から諦めてしまうことも多い。また、おじさまのように一番大切な存在を失ってしまうと、誰かを愛することに恐怖を感じてしまうだろう。しかし、愛されたいならば、相手を信じ、自ら愛を与えていくことも大切なのだ。人を愛し、人から愛される権利は誰にでも平等にある。だからこそ、孤独や寂しさを抱えた人ほど、愛を貪欲に求めてもいいのかもしれない。

 人は誰かの存在で、より優しく強くなれる。そう実感させてくれる本書はねこ好きさん以外にもおすすめできるデトックス本だ。幸せ泣きしたい方はぜひ、ふたりが繰り広げる優しい毎日をチェックしてみてほしい。

文=古川諭香