良いモノをつくれば売れる単純な時代は終わった。“なのに”売れている店は何が違うの?

ビジネス

2018/4/18

『スープを売りたければ、パンを売れ』(山田まさる/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 マーケティングの話題になると、「感覚的なので明確な答えがない」「結局どうしたらいいのかわからない」という悩みをよく聞く。だが、一つひとつの事例をみると、成功した根拠や施策はとても理論的であることも多い。一見ふわふわととらえどころがないようで、実は単なる思いつきとは違うのだ。では、私たちはマーケティング策を練るならば、具体的にどう進めていけばいいのか。それを分かりやすく解説してくれるのが、『スープを売りたければ、パンを売れ』(山田まさる/ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。

■モノが売れないというマンネリをどう破ればいい?

 マーケティングの基本は、「誰に」「何を」売るか。商いとしてもビジネスとしても当たり前のことだが、だからこそ陥りやすい罠があるという。「ターゲット(=誰に)」や「商品・サービス(=何を)」が固定化し、習慣になってしまうケースは多いだろう。まずこれを見直すことが、新しいマーケティングの方法だという。そして本書では3つのコツを挙げている。

(1)“なのに”で売る
(2)“ずらし”で売る
(3)“組み替え”で売る

というのがそれぞれの方策のヒントだ。

■話題の人気店が成功したのは、偶然じゃない

「“なのに”で売る」のモデルケースとしては、東京一長い商店街として知られる戸越銀座商店街の老舗鮮魚店「魚慶」が行っている、“鮮魚店なのに、お刺身なのに、バイキング方式”というケースが挙げられている。ここでは、町の魚屋さんにしては珍しく集中レジで精算する方式を取り入れている。というのも、並んでいる商品から3点好きな刺身を選んで一律1000円という売り方をしているのだ。この売り方は、「新鮮な魚を、自由に選んで、好きなだけ食べてほしい」という店主の思いから始まったそうだ。今やこのサービスが人気で有名になり、朝から晩まで客が押し寄せ大繁盛しているという。

 また、同じ商店街に新しくオープンした塩専門店「ソルコ」では、“塩なのに、試験管に入れて販売されていて、イートインコーナーもある”というのが売りで、これまた成功している。この店は理系女子、いわゆる“リケジョ”が店主で、塩の魅力にひかれて研究を重ねオープンに至ったそうだ。イートインコーナーでは、おにぎりやコロッケに異なる種類の塩を組み合わせて実験(=試食)することもできる。

 紹介した2店とも、商品自体にも強い思い入れがある。鮮魚も塩も一級品だ。しかしただモノを押し出すのではなく、売り方やサービスに“●●なのに××”というエッセンスを加えることで、それまで見えていなかった商品の価値を際立たせているのだ。商品の質を知って来店してくれるお客さんの心を掴むのはもちろんのこと、この意外性で通りすがりの散策客の興味も引いている。これは、取り扱う商品・サービスに高い誇りや理想があるからこそ、チャレンジできる方策でもあるだろう。

■マーケティング理論は、あなたの仕事を見直すきっかけになるかも!

 本書では、目線を変えて新しい価値をプラスする“ずらし”のルール、売り物と売り先の組み合わせを変える“組み替え”のルールについても、具体的なビジネス事例を挙げながら分かりやすく解説している。これらの新しいルールを実施するのに必要な基本が、お客さんの心をしっかりと掴む「つかみ」と、情報を伝播させて商品とお金を動かす「仕組み」であるという。

 ここまで紹介してくると、『スープを売りたければ、パンを売れ』という一見不可解な本書のタイトルの意図がだんだん分かってきたのではないだろうか? ぜひ本書を開いて、その新しいルールや仕組みづくりの答えを探してみてほしい。

 本書には、マーケティングの基本をフル活用し、新しいアイデアを加えるビジネスの方法が丁寧に説明されている。本書に沿って、あなたが今取り組んでいる仕事の流れを一つひとつ見直して新たにマスターしていけば、きっと充実した経験を蓄積することができるだろう。本書は、マーケティングの理論書“なのに”、仕事の充実を図る啓蒙書でもあるのだ。

文=月乃雫