女の子を好きに為ってはいけないんですか? ──少女たちの友情と恋心を描く、最新の「少女小説」

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/2

©Innocent Grey

『FLOWERS 1 -Le volume sur printemps- フラワーズ〈春篇・上〉(星海社FICTIONS)』(志水はつみ:著、スギナミキ:イラスト/星海社)

 内気で臆病な人間にとって、ある人と“友人になれた”と確信するには長い道程が必要だ。普通に話しているときさえ「この人は自分と話していて楽しいのかな…?」と心配になったり、相手のふとした言動から「もしかして嫌われてるんじゃないか」と考えて、不安に陥ることもある。私自身、相手の様子に一喜一憂を繰り返し、なんとか“向こうからも友人だと思われている”ことに確信を得て、ようやく安心できるタイプだ。

 本稿で紹介する『FLOWERS 1 -Le volume sur printemps- フラワーズ〈春篇・上〉(星海社FICTIONS)』(志水はつみ:著、スギナミキ:イラスト/星海社)にも、そんな不器用な少女たちが登場する。主人公の白羽蘇芳(しらはね すおう)は、ある事情から学校に通わず祖父の家に引きこもり、小説や映画といった“物語”の世界で、他人に浸ることで幸せを感じていた。しかし、物語を読むだけでは自分は変わらず、憧れの主人公たちのように素敵な友達に囲まれることはない。彼女はそんな自分を変えたいと願い、全寮制の女子校・聖アングレカム学院への入学を決意する。なぜなら、この学院には、生徒同士がペアを組み、共に寮生活を送る“アミティエ”という制度があったから。

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 蘇芳のアミティエとなったのは、明るくさっぱりとした性格で、お菓子作りが趣味の匂坂マユリ(こうさか まゆり)と、真面目で面倒見が良く、もてなし好きの花菱立花(はなびし りっか)。この3人で同じ寮室で暮らし、学院生活の多くの時間を一緒に過ごすことになる。蘇芳は、このアミティエ制度がある学院なら、自分にも友達が作れると考えたのだ。

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 だが、アミティエとは、あくまで制度で決められた“仮初めの友”。たとえ、表面上仲良く話すことができたとしても、それは“アミティエだから”なのか“友達だから”なのか…それは、言葉にして伝えなければわからない。蘇芳がアミティエとの距離感に悩んでいる中、図書室で本の紛失騒ぎが起き、その犯人として立花が疑われてしまう。クラスで孤立しつつある立花を助けるため、蘇芳は盗まれた本について調べ始める――。

 本作は、百合ファンから絶大な支持を受ける同名ノベルゲームのノベライズ作品。著者は小説化に際し、秘められていた少女たちの感情を深く描き、より彼女たちの内面へと迫っていく。今巻では蘇芳とアミティエのふたり、そしてクラスメイトたちとの“友情”が中心に描かれるが、彼女たちの心のうちには、仄かに“それ以上”の感情が見え隠れし始める。上巻から彼女たちのあやうい関係性にはやきもき、どきどきさせられっぱなしだが、下巻以降、さらに深く互いを通わせてゆくだろう彼女たちの物語を、著者は“小説”としてどう表現するのだろうか。

文=中川 凌