アメリカの“奇跡の子ども合唱団”を率いる日本人、その教育メソッドとは?

エンタメ

2018/9/23

『君だけの声を聴かせて 奇跡の米国子ども合唱団を率いる日本人』(福田真史/PHP研究所)

 大ヒット映画『アナと雪の女王』主題歌、「レット・イット・ゴー」はこれまで多くの歌手にカバーされてきた。中でも有名なのは、アメリカの合唱団「ワン・ボイス・チルドレン・クワイア(以下、ワン・ボイス)」が参加した動画だろう。アフリカ系ミュージシャンのビートに乗った少年少女のピュアな歌声は、他のカバー歌手にはない新鮮な魅力にあふれていた。2014年、YouTubeにアップされた動画は2018年4月の時点で9600万回を超える再生回数を記録している。

 これだけのハーモニーを聴かせられる合唱団はさぞかし、血のにじむような努力をしてきたはずだと多くの人が予想するだろう。しかし、ワン・ボイスの練習は基本的に週1回、それも2時間程度。子供たちも音楽を専門的に勉強しているとは限らず、普通の児童も多い。オバマ大統領の前で歌ったこともあるワン・ボイスはどのようにして成長を遂げたのか。その模様はNHK BS1「MASAと奇跡の合唱団」で放送されたが、より詳しく知りたい人には『君だけの声を聴かせて 奇跡の米国子ども合唱団を率いる日本人』(福田真史/PHP研究所)がおすすめである。

 著者の福田真史氏はワン・ボイスのディレクターとして、合唱団の楽曲を編曲し、指導にあたっている。少年時代、日本の学校教育になじめなかった著者は学生時代に渡米した。そして、ブリガムヤング大学で音楽を学んだ後、曲づくりに没頭し始める。大きな転機は2002年。ソルトレイク五輪の公式CDに自曲「IT JUST TAKES LOVE」が採用され、注目を浴びたのだ。「IT~」には1600人もの子供たちの声がコーラスで使用されており、レコーディングがきっかけでワン・ボイスの前身となる合唱団が結成された。

 子供たちから「Masa」と呼ばれている著者の指導方法は非常に独特だ。まず、ワン・ボイスでは4歳から18歳までの少年少女150人が一緒に練習している。そして、著者は子供たちに「同じ歌い方」を強要しない。あくまでも個々人の地声で歌いやすいように歌っていいのがワン・ボイスの特徴だ。それでもワン・ボイスが美しいハーモニーを奏でられるのは、子供たちを声質ごとに7、8パートに分けているからである。ただし、普通の合唱曲はせいぜい2パートほどしか譜面がない。著者はワン・ボイスのために、毎回新たな譜面を考案しているのだという。

 どうして著者が「個性」や「自由」を尊重しているのかというと、子供たちに歌の楽しさを知ってほしいからだ。著者にとって歌とは「メッセージを届けること」である。メッセージがダイヤモンドだとすれば、テクニック不足とは「埃や汚れ」に過ぎない。

だから、埃や汚ればかりに注目して取り除くことを目的にするのは本末転倒です。歌の技術を高めることはメッセージを輝かせる手段。上手く歌えるようになることが目的ではないのです。
歌に輝くメッセージを乗せることができれば、観客とコミュニケーションをとることができます。心と心がつながるのです。

 著者の信念を証明した出来事がある。2017年秋、ワン・ボイスは来日し、九州でコンサートツアーを行った。曲目には普段のレパートリー以外にも「大きな古時計」「翼をください」といった日本の楽曲が含まれていた。もちろん、歌詞は日本語である。SMAPの「世界に一つだけの花」を歌っていたときだ。原曲どおりに子供たちが振り付きで歌っていると、観客も振り付きで合唱してくれたのである。初めての経験に感動し、泣き出しながら歌う子供たち。著者が曲のメッセージを大切にしていたからこそ、異国の地でも観客とコミュニケーションがとれたのだ。

 ワン・ボイスと日本の交流は深く、子供たちは日本人の礼儀正しさから学ぶことも多いという。一方、日本の子供たちはワン・ボイスの自由な歌い方から刺激をもらっている。これからも著者は音楽を通し、アメリカと日本が長所を認め合うための架け橋になりたいと願っている。

文=石塚就一