NHKドラマ10で反響を呼んだ『透明なゆりかご』――美談だけでは語れない! 命と性の話

エンタメ

2018/9/29

『小説 透明なゆりかご』(橘もも:著、安達奈緒子:脚本、沖田×華:原作/講談社)

――産声と歓声に包まれて、新たな生命と“母”が誕生する幸福な場所。

 産婦人科について、そう思っている方も多いかもしれない。しかし、現実には手放しに喜べるわけではなく、時には残酷な現実に向き合わざるを得ず、命と葛藤が交錯する場所でもある。

 7月20日よりNHKで放送され、大きな反響を呼んだドラマ『透明なゆりかご』では、そんな産婦人科の多面性とそこに関わる人間たちの心の機微を細やかに描いている。

 主人公・青田アオイは、看護学校の3年生。物語は、町の小さな産婦人科である由比産婦人科でのアルバイトの初日から始まる。

 不倫の末にできた子どもを泣く泣く出産する人、中絶を選択した人、自分の死がわかっていても出産を決意した人、産んだ子どもを紙袋に入れて捨てた人、子どもが欲しくてもできなかった人、母に虐待をされて育った人、性暴力を受けて搬送されてきた人。

 アオイは、由比産婦人科で数多くの“母”に出会い、温かさや強さに触れる。ときどきは憤ることもあった。しかし、人間一人ひとりが異なるように“母”もそれぞれに異なる、あるいは多面性のある生身の人間なのだという、“当たり前”の事実を受け入れていく。

「特段、子どもが好きだというわけでもない」アオイがどうして産婦人科で働こうと思ったのか、アオイ自身もわからずにいた。しかし、出産を経て母になる者や、物言わずに消えた命を静かに見送る者など、さまざまな母子の姿を間近で見つめるうち、自身の抱えてきた母への想いに気づくのだった。

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 漫画家であり、ADHD当事者である沖田×華(おきたばっか)の実体験をもとに描かれたマンガが原作となっている本作。ノベライズ版『小説 透明なゆりかご』(講談社)を担当したのは、『OVER DRIVE』や『リトルウィッチアカデミア』など、数々のノベライズ作品を手掛けた、橘ももだ。

 ハードな内容とは相反するかたちで、物語は淡々と、比較的穏やかに進んでいく。しかし、それは私たちが時間の奴隷に過ぎないという厳しい現実を突きつけるようでもある。原作者の感情や葛藤を掬い取って立ち上げた言葉たちは、時折すさまじい強度をもって、読み手の心を刺す。

私が普通じゃないから。お母さんの望むような娘にはなれないから。(中略)私たちにはわからなかった。お母さんがどうしてそんなに怒るのか。どうして優しく笑ってくれないのか。私たちはあの頃からずっと、答えのない問いを抱き続けている。

お母さんの拳が、私自身に向けられたことはない。だけどお母さんに怒られるたび、私はいつも痛かった。声に殴られているような、気がしていた。注意欠陥多動性障害――いわゆるADHDに私は分類されるのだと、お医者さんに言われたのはそれからしばらく経ってから。中学に入ってからのことだった。

 物語を捉える視点はアオイの視点からだけではなく、妊娠した当事者の視点、その夫の視点、その両親の視点、由比産婦人科で働く看護師たちの視点、アオイの母親の視点など、縦横無尽に切り替わる。レンズの寄り引きによって、視点の切り替えによって、私たちは登場人物のすべてに自分を投影し、いつしか歩み寄っているはずだ。

 命に正しさや絶対はないということを『透明なゆりかご』は教えてくれる。

 懸命に葛藤する、数多の人間たちの人生を、この作品で追体験してほしい。

文=佐々木ののか