発売後ぞくぞく重版で累計17万部突破!『下鴨アンティーク』の著者、新シリーズは禁断の妃をめぐる中華風ファンタジー

文芸・カルチャー

2019/2/3

※「ライトに文芸はじめませんか? 2019年 レビューキャンペーン」対象作品

『後宮の烏』(白川紺子/集英社)

 決して近づいてはならない2人が惹かれあう禁断の関係に目がなくて、なおかつ幻想的な小説がお好みの読者にイチオシの小説がある。『後宮の烏』(集英社)だ。著者の白川紺子氏といえば、京都が舞台のファンタスティック・ミステリー『下鴨アンティーク』や、仲良し偽装夫婦のふんわりご近所事件を描いた『契約結婚はじめました。』が人気だが、今作は中華風の世界に敷かれた大いなる神話を基に展開していく。

 後宮で生きながら決して夜伽をすることはなく、皇帝でさえかしずかせることのできない存在。それが烏妃(うひ)――16歳の美しき少女・寿雪(じゅせつ)だ。彼女の役目は、失せもの探しから呪殺、招魂までありとあらゆる依頼に応えること。先代の烏妃から継承した不思議な術を使って、後宮に存在するあまたの幽鬼(死者)にまつわる謎を解決していくのだが、第1巻で登場する最初の依頼者が高峻(こうしゅん)。若き皇帝だった。

 寿雪はすすんで烏妃となったわけではない。出自ゆえに命を狙われ、母を殺され、行くあてもなかった彼女はなかば強制的に後宮へと連れてこられたのだ。しかも烏妃は皇帝さえ知らされていない秘密をさまざまに抱えていて、「侍女を置いてもならぬ」と孤独な運命を課せられている。だが高峻は、実母と友を殺した皇太后の陰謀を暴いてくれた寿雪の不器用な優しさと誠実さに惹かれていく。自分こそが彼女を後宮に縛りつける元凶であると知ってなお、「私はそなたのよき友になりたい」と手をさし伸べるのだ。

 それは寿雪を救うものであると同時に、唯一の友を無残に奪われた高峻にとっては、求愛よりも切実な願いでもあっただろう。他人を無条件に信じることの許されなかった2人は、寿雪のもとに持ち込まれるさまざまな事件を通じて、少しずつ信頼を確かなものにしていく。その過程に胸をときめかさずにはいられない。

 寿雪の“友”となるのは高峻だけではない。侍女の九九(ジウジウ)、高峻の側近である宦官の衛青(えいせい)、衛青に寿雪の護衛を命じられた温螢(おんけい)。高峻命の衛青は一貫して寿雪に冷淡だが、年の近い九九は自分を守ろうとしてくれた寿雪に忠誠を誓い、その孤独な心を少しでも癒そうと努める。温螢もまた、相手が人であろうと幽鬼であろうと弱き者に手をさし伸べ、できる限りを尽くそうとする寿雪の姿に打たれ、命令ではなく自分の心で彼女を守ろうとしはじめる。寿雪の優しさは他者との関わりによって引き出され、周囲の人々を癒していく。その優しさに触れた人々が寿雪に想いを返し、彼女もまた癒されていく。

〈人を動かすのは、感情だ〉と高峻は言う。幽鬼が現世にとどまるのは無念を抱いているからで、寿雪のもとに持ち込まれる謎はたいてい、人間関係がもつれた末に起きる悲劇に起因する。やりきれない物悲しさと、胸の奥に灯がともるようなぬくもり。どちらも与える感情のドラマを、丹念に描いているところに本作の魅力はある。

 ささやかな幸福を手に入れたかのように見えた寿雪だが、反比例するように2巻ではいたたまれない事件が続き、さらに寿雪でさえ知らなかった烏妃の秘密が明かされる。鍵を握るのは1巻でもちらりと触れられていた梟(ふくろう)――寿雪の命を狙う敵だ。細部まで伏線だらけの本作、いったい3巻ではなにが起きるのか。既刊をじっくり読み返しながら、楽しみに待ちたい。

文=立花もも

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