その健康情報ってホント? 鵜呑みにしてしまう前に確かめたい「真偽」の見分け方

健康・美容

更新日:2019/4/19

『教養としての健康情報 「それ」本当に信じていいですか?』(市川衛/講談社)

 情報が簡単に入手できる現代で「正しい情報」を見極めるのはなかなか難しい。ライターである筆者も常々身につまされるところではあるが、ネットを中心に玉石混交の情報がめまぐるしく更新されていくなか、根拠のハッキリしない情報に惑わされる機会も多々ある。

 とりわけここ数年で、厳しい目が向けられている分野のひとつが“健康”に関する内容だろう。2016年にはDeNAが運営する医療情報サイト「WELQ」が、根拠にもとづかない情報を発信したとして閉鎖に追い込まれたことも記憶に新しいが、人の生命にも関わるような情報については発信する側もだいぶ慎重になってきた印象がある。

 書籍『教養としての健康情報 「それ」本当に信じていいですか?』(市川衛/講談社)は、情報の受け手に対して“健康情報リテラシー”の大切さを説く1冊。健康にまつわる情報と冷静に向き合う目を養うことができる。

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■きちんとした“試験”が行われているかが信頼性の分かれ目

 健康に関する情報がとりわけ注視される理由は、人の生死に関わりかねないのはもちろんのこと、日々のさまざまな研究や専門家の学説により、いくつもの“定説”が存在するからだ。

 例えば、ある研究によれば「うがい薬を使わずに、水でうがいしたほうが風邪を予防できる」という見解がある。本書はこの見解について、「うがい薬は使わずに『水』でうがいをしたほうがよさそうだ」と結論づけているが、正否を確かめる過程で、「信頼性が高そうな情報」を見極めるためのヒントを与えてくれる。

 著者が注目しているのは「比較試験」が行われた上での情報かどうかだ。ある特定の症例について、参加者を「治療をする人」と「しない人」などのグループに分けた上で、一定期間の効果を見極める調査方法であるが、じつは、先述した風邪のうがいにまつわる学説もこの方法により導き出されたものだった。

 この検証方法を用いるのはプラセボ(偽薬)効果や思い込み、自然治癒の影響を減らすためである。健康に関するニュースなどを見ると「◯◯と比較した場合」と表現されている場合もある。このような記載があれば、そうでないものと比べて「より信頼性が高そうな情報だと考えてもよいかもしれません」と著者は述べている。

■根拠の有無よりも“感情”を揺さぶるコンテンツが拡散される現代

 昨今、ネット上でのフェイクニュースも問題視されているが、広く拡散されているからといって必ずしも“正しい情報”であるとは限らない。では、なぜ根拠のない情報がはびこってしまうのだろうか? 本書では「根拠云々より『感情』を揺さぶるコンテンツが拡散されやすい」と、その背景を指摘する。

 この問題について、アメリカのウィスコンシン医科大学が2016年に実態を調査した。当時、米国内で猛威をふるっていた「ジカ熱」にまつわる記事や動画の拡散状況を調べたところ、投稿の質自体は8割以上が適切な情報源(アメリカ疾病管理予防センターなど)にもとづく正確な情報だったが、12%は「ジカ熱は発展途上国の人口削減のために利用されている」といった陰謀論であることがわかった。

 ただ、数字的に「どの情報がより多く拡散されたか」を見ると、12%を占めた何らかの誤解を生む情報のほうがはるかに多く拡散されていた。研究グループが調べた200ある記事のうちで、もっとも拡散されていたのが「ジカ熱は大企業によるでっちあげである」と主張する動画で、フェイスブック上での再生回数は53万回以上。シェア数も19万6000人に達していた。

 一方で、情報が「正確」とされたコンテンツのうちでは、WHO(世界保健機関)によるプレスリリースがもっとも多く拡散されていたが、それでもアクセス数は4万3000程度、シェア数は1000程度にとどまり、先述の陰謀論動画と比較して影響力が低いことが判明した。

 さて、情報の真偽を精査するというのは、ひじょうに困難な作業でもある。ソース自体の信頼性を問いその論拠を探ろうとすればキリがないほど時間がかかる可能性もあり、ともすれば堂々巡りにもなりかねない。しかし、「情報に振り回されない」という視点から見ると、まずは一度“疑ってみる”という姿勢も大切だろう。そこから、真偽を確かめていくのだ。本書をたよりに、私たち自身の健康に関する情報とどう向き合うべきかを学んでいきたい。

文=カネコシュウヘイ