この物語のどこかに“あなた”がいる! 閉店が決まった“あかつきマーケット”のマスコットが突然失踪!?『夜が暗いとはかぎらない』

文芸・カルチャー

2019/4/14

『夜が暗いとはかぎらない』(寺地はるな/ポプラ社)

 世界は自分だけのものじゃない、と初めて気づいたのはいつのことだっただろう。今でもときどき、考える。たとえば電車に乗ったとき、その場にいる全員にそれぞれの人生があるのだということ。見ず知らずの他人だけじゃない。よく知っていると思い込んでいる家族や、友達や、恋人。みんな自分とは違う視界でものを見て、似ているようで異なる価値観を携え、自分とは違う繋がりのなかで生きているのだということ。世界は今この瞬間も、輪つなぎでどんどん、広がっている。『夜が暗いとはかぎらない』(寺地はるな/ポプラ社)を読んで味わったのは、あたりまえなのにどこかなじまない、その不思議な実感だった。

 物語のダイナミックさで一気読みを余儀なくされる作品もあれば、噛みしめながらじっくり味わいたい作品もある。『夜は暗いとはかぎらない』は後者だ。10以上の店がひしめきあう「あかつきマーケット」を中心に暮らす人々を描いた連作短編集……なのだが、登場する人々がとにかく多い。

 第1話の主人公は、あかつきマーケットのキャラクター、あかつきんの考案者でありフラワーショップで働く芦田さん。2話は芦田さんが見かけた、小さな娘を連れた白川さん。というように、誰かの物語に顔をのぞかせた別の誰かが次なる主人公となる。一見無関係に思える物語も、間に誰かを介して繋がっていく。

 読みながら、この小説はどこへ向かうのだろうとずっと考えていた。失踪したあかつきん、という中心人物(?)はいるけれど、それも大騒動というわけではない。いったいどんなふうに着地するのだろう、と。けれど読み終えてわかった。どこにも着地なんてしなくていいのだ。だって人生は、死ぬまでどこにも着地しない。

 描かれるのはその人の人生におけるほんの一瞬でしかなく、生活をちょっぴり覗き見させてもらっている、という感覚に近い。でもだからこそ、この世は異なる個人の集合体なのだということ、一人として同じ人間などいないということ、けれども同時に、“みんな同じ”なのだということが沁みてくる。子供から大人まで男女問わず描かれるなか、立場によって共感がかわるということもなかった。「心のバランスが崩れたことない人なんているの?」と、美しきピアノ講師・玲美が言ったように、程度の差はあれ、事情は違えど、みんな迷うし戸惑いながら生きている。自分とはかけ離れた別世界の人間、なんて、この世界にはたぶん、そうそういない。

 作中で響く個所は人によって違うだろうが、私はこのセリフが好きだった。

わたしたちの『好き』はわたしたちのものです。世界にすでに存在するパターンに当てはまらないからって、ほんとに人を好きになったことがないなんて決めつけられたくない。

 自分だけが違うと感じても、取り残されたような気分になっても、それは決して“間違い”ではない。他人の目を気にせず生きるなんて簡単にできることではないけれど、自分の「好き」を大事にそっと育んでいけば、それはやがて微かな光となって道を照らす。そう信じさせてくれる小説だった。


文=立花もも