学校でも職場でも家庭でも、人生はオーディションだらけ! 選ばれない女性に幸せは訪れる?

文芸・カルチャー

2019/6/19

『オーディションから逃げられない』(桂望実/幻冬舎)

 自分は周囲の人よりも劣っていると感じることはないだろうか。あの人よりも容姿が劣っている、能力が劣っているなど。他人と比べてはいけないとわかっていながらもついつい比べてしまい、「もっと容姿が整っていたら…」「もっと自分に才能があったら…」などと思ったり、「どうして自分は」と落ち込んだりすることもある。『オーディションから逃げられない』(桂望実/幻冬舎)の主人公、渡辺展子もそんなひとりだ。

人生にはたくさんのオーディションがあって、それにあなたは参加せざるを得ないんです。

 これは展子の言葉だ。確かにその通りだと思う。自分を人と比べてはいけないとよく言われる一方で、他人からは比べられ評価される。それを避けることはできない。そして展子は人生のオーディションで不合格になることが多く、昔から自分はついてないと思っていた。

 中学校で仲良くなった久美は超美人。それだけならよかったのに、2人はなんと同じ苗字。展子は美人じゃないほうとして認識されるようになる。美術部に入って努力を重ねても、賞をもらえるのは変わった絵を描く友人のほうで、展子は一度も受賞できなかった。就職活動でも、仲良しグループの中で展子だけ内定がもらえない。授業にろくに出席しなかった人はコネで内定をもらっているのに、真面目に課題に取り組んでいた自分はどうしてなのか。

 彼女と似たような経験を持つ人は多いだろう。身近にいる容姿の整った人や才能にあふれた人を見ると、「うらやましい、きっと人生幸せなんだろうな」などと思ってしまいがち。では、そうではない展子のような人は幸せになれないのだろうか?

 展子は大人になるまで、なかなかオーディションで選ばれなかった。しかしそんな展子にも、自分を選んでくれる男性が現れる。やっとオーディションに合格して結婚した彼女は、これで幸せになれると思いきや、そう簡単にはいかないのが人生だ。

 展子は今まで、人生のオーディションに合格するために努力してきた。頑張っても頑張ってもオーディションで落とされることが多く、たくさん悔しい思いもしてきた。そんな彼女も大人になり、オーディションを受ける側だけでなく、妻として経営者として、夫や従業員をオーディションする側にもなったのである。そして、今までオーディションにこだわってきた彼女の評価はとても厳しい。

 のんびりした性格の夫やミスを重ねる従業員にイライラする展子。どうしてもっと努力しないのか。どうして言われた通りにできないのか。「正しさ」を重視するあまり相手への思いやりに欠けてしまう展子の姿は、自分にも思い当たるところがあり、気をつけなければと思わされた。小説なら客観的に人物を見ることができるので、過ちに気づくことができる。しかし、実際に自分が間違っているとき、それに気づいて過ちだと認めるのは難しいことだ。展子も自分を省みることなく突き進み、家庭でも職場でも孤独になっていく。

 考え方を改めた展子は、異なる視点で物事を見られるようになる。そして、自分には支えてくれるたくさんの家族や友人がいること、やり直すチャンスがあることに気づく。展子は決してついてない人間ではない。むしろ、恵まれていたのだ。

 選ばれない人生を送ってきた女性が、幸せの形を見つけるまでを描いた作品。人生のオーディションでなかなか選ばれない姿や、他人のミスにイライラしがちなところなど、全体的に共感できるところが多かった。

 人生のオーディションには合格と不合格しかないように見えるが、幸せに合格ラインは存在しない。オーディションの合否に関係なく、身近なところに幸せがあることをこの本は教えてくれた。失敗してもまたやり直せばいい。あまり気負わず、力を抜いて生きていこうと思った。自分のことをついていないと思う人も、これを読めば違う角度から自分の人生を見つめることができるようになるかもしれない。

文=かなづち