「今月のプラチナ本」は、千早茜『神様の暇つぶし』

今月のプラチナ本

2019/9/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『神様の暇つぶし』

●あらすじ●

父を突然の事故で亡くした二十歳の大学生・柏木藤子。ある夏の夜、鋭利な刃物で切り裂かれ、腕を血まみれにした男と出会う。「でかくなったなあ」と呑気な声で笑った男は、死んだ父よりも年の離れた写真家・廣瀬全。恋愛なんて似合わない、そう思っていた藤子に、初めての恋を与え、そして、奪っていった男――。

ちはや・あかね●1979年、北海道生まれ。2008年、『魚神』で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。翌年、同作にて第37回泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞を受賞。同年に『あとかた』、14年に『男ともだち』で直木賞候補に選出される。他の著書には『からまる』『クローゼット』など多数。

『神様の暇つぶし』書影

千早 茜
文藝春秋 1550円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

「共感」を踏み破る、圧倒的な熱量

物語の魅力のひとつに「共感」がある。こういうこと自分にもあったな……というしみじみした感動。だが時として、ちっぽけな自分の経験など踏み破るような、膨大な熱と刺激に満ちた物語に出くわすことがある。本書がそれだ。「遊ばないで、傷つけるなら、ちゃんと傷つけてください」。単に人を好きだという感情とは、似て非なる欲望。自分はこんな恋をしたことはないし、そもそも視点人物は女性だし、「共感」はない。だが未知の高ぶりが、こちらの精神をガタガタ揺さぶってくる。

関口靖彦 本誌編集長。すいすい読めちゃう、という感覚とは対極にある、重く濃密な読み心地の本でした。手探りと舌触りだけで、先へ進んでいくような。

 

食事のように恋も貪る?

本当にひどい男だなぁ。現実の私が藤子のように彼に出会ってしまったら、きっと見なかったことにして存在を無視するだろうと思うほどに(笑)。そんな男と若い藤子との濃密な日々を読み進めるのは体力がいるけど小説ならではの楽しみだった。そして読み進めるうえでの活力になったのが、藤子の食事風景だ。生きる力が漲っているのが感じられて、“食べる”ってこういうことだよな、と気持ちよくなった。最後、藤子がこの濃密な日々を食事のように糧としてくれそうで、少し安心した。

鎌野静華 スペインに行きたいのだが、すでに別の旅行の予定が2つ入っている。お金はないのに散財しすぎで気持ちがわるい。はぁ~、あぶく銭がほしい!

 

海老天握り、鶏釜飯、ツブ貝の煮物

藤子がある男と過ごした10年以上前の夏、その途方もない密度が彼女の現在と過去の視点で語られてゆく。父に先立たれた20歳の女子大生と、病に冒された老写真家。死の匂いを漂わせながら結びついた二人は、とにかく色んなものを一緒に食べる。食べて、食べて、二人の時はどんどん終わりに近づいてゆく。いつしか藤子の前に現れるカメラは、自分の死期を悟っていた男の矜持であり、諦念であり、執着そのものだ。だからこそ男の作品を、どうしても見たいと思ってしまうのであろう。

川戸崇央 今月のトロイカ学習帳のテーマは「自己啓発本」。なんとなく苦手、食わず嫌いなジャンルにこそ、新たな発見が満ち溢れているはず!?

 

「上書き」なんて出来ないほどの恋

男性の恋愛は「別名保存」で女性は「上書き保存」とよく聴くけれど、〈初めての恋は、真夏の太陽のように容赦なくすべてを奪い、私を私でなくさせた〉ほどの恋を経験したなら、そうもならないと思う。ずっと固まって上書きもできなくなる。〝彼〟に生きる意味があったのに今を生きなきゃならない主人公が、残された「もの」に踏み込み向き合うことで、私は尊敬され肯定されていたのだ、と前に進む。我が過去とも重ねて読んでしまった溺れるような恋は、しんどいけれど、やっぱり眩しい。

村井有紀子 「文豪特集」担当。本当に好きにアイデア出し&ディレクションさせてもらった各グラビア紙面でした。皆様ご協力ありがとうございました。

 

写真家のまなざしが写すもの

親子ほども歳が離れた男女の恋愛小説なのだが、この写真家の男がたいへんけしからんのです。生きることにどこか捨てばちで、捉えどころがなく、でもふと見せる笑顔が壮絶にエロい(想像)。そんな男、ぜったい好きになっちゃうじゃん! しかし本作で何より官能的なのは、撮る者と撮られる者の関係性かもしれない。男のまなざしが写真として立ち現れるシーンは怖いほどエロティックで、あらゆる命をふりまわす恋という不条理――他者に触れたいという欲望を肯定する力に満ちている。

西條弓子 最近やけに疲れるので足つぼに行ったら悶絶の激痛。どこが悪いんですかねと問うたら「……心?」と呟かれました。なんかすみません。

 

手負いの獣の美しさ

女らしくないことにコンプレックスを抱く女子大生・藤子が、人たらしな六十手前の写真家と過ごした夏。加工され、漂白された美しさに慣れた頭が、湿度が高く生々しい描写に揺さぶられた。二人は男女の関係にあるけれど、そこにあるのが恋なのか、執着なのか、依存なのか、わからない。『男ともだち』で恋愛という言葉ではくくれない男女を書いた千早さんが、本作では、より強くどうしようもなくむさぼりあう関係を描く。夏の日差しと藤子のがむしゃらな想いに焦がされる。。

三村遼子 タイトルの由来になっているGO!GO!7188『神様のヒマ潰し』も名曲です。同バンドの『初秋』もこの本の読後感に合うのでBGMにぜひ。

 

恋愛小説とひとくくりにできない人間賛歌

すでに死んでしまった男のことを忘れられず、しかし同時に憎んでもいる主人公・藤子の回想が大半を占める本書。この回想がめちゃくちゃリアルで困る。夏の匂いや湿度、人物の仕草や肉体の描写、そしておいしそうな食べ物たち。出てくる全てが読者自身の記憶を揺さぶって、過去の何かをフラッシュバックさせる。特に食事シーンの命を食らう感が印象的。恋愛小説ではあるが、著者が描きたかったのは、命を燃やして生きることだと感じた。糧も男も情も食らって生きる女は強くて美しい。

有田奈央 今月はミステリー特集を担当。めまいのするような暑さですっかり引きこもりになっていましたが、熱帯夜に読むミステリーは最高の時間でした。

 

怒りも傷も、すべて飲み込め

恋に溺れるとはこういうことをいうのだろう。深入りしてはいけないと分かっていても、どうしようもなく惹かれてしまうことはある。二人の濃密な日々は、読み進めるにつれて、自分もどこか深みに落ちていくような、そんな感覚がした。そして、「泣きたくなったら食べればいい。泣きながらでも飲み込めば、食べた分だけ確実に生きる力になる。」この言葉に、ああそうか、と思った。藤子が全との日々で抱いた想いも、怒りも、傷も、いつか飲み込んで生きる力になればいい。

前田 萌 本書の里見くん推しです! 見た目に反して毒舌なんて……! 時折見せる優しさにもキュンとしました。最近、この手のキャラクターに弱い気が……。

 

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