刑務所でおせち料理は食べられる? 日本一刑務所に入った男が「塀の内側」を語る

社会

公開日:2019/12/30

『もしも刑務所に入ったら』(河合幹雄/ワニブックス)

 2019年もあっという間に過ぎ、残りわずか。今年は最悪な1年だった…と嘆く人でも、さすがに刑務所に入ったという人はなかなかいないのではないだろうか。もしかしたら、何らかのトラブルに巻き込まれたり、あるいはトラブルを起こして警察のお世話になった人はいるかもしれないが、「刑務所に入ること」は想像以上に少数の人に限られているという。
 

『もしも刑務所に入ったら』(河合幹雄/ワニブックス)は、“日本一刑務所に入った男”と称される著者が、表舞台ではなかなか明かされない「刑務所の内側」について記した1冊だ。誤解なきように補足すると、著者は極悪犯罪者などではなく、法務省矯正局関連の評議員や刑事施設視察委員会の委員長として、全国津々浦々の刑務所に立ち入った経験を持つ人物である。

■なかなか入れない刑務所にはどんな人が入るのか?

「泥棒したら警察に捕まって刑務所に入れられる」といったイメージが、いわゆるシャバで暮らす私たちの一般的な認識かもしれない。だが、現実は異なるようだ。そもそも刑務所はお仕置きのためではなく、収容者の更生と社会復帰を目的とした施設である。そのため、刑事政策上の基本姿勢は「なるべく入れない、入れてもすぐに出す」という原則で運用されているのだという。

 社会から隔絶された刑務所で過ごす期間が長くなるにつれ、社会復帰はより難しくなる。そのため、自活能力のある人はよほどの犯罪でない限り刑務所には入れられないという。本書によると、新受刑者の68.4%は無職というデータも。日本社会の厳しい側面が垣間見える。

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 また、新受刑者の最終学歴に関する統計では、半数近くが中卒以下で、高校中退が2割程度となっている。高校進学率が現在99%のさなかでのこの比率は、経済的な理由や学歴との関連など、犯罪の社会的背景を無視できない現状を突き付ける。

■受刑者の正月――おせち料理は食べられる?

 年末年始がめでたいのはシャバと同様、刑務所の中も同じだそう。受刑者にとって大みそかと正月は楽しみなイベントなのだという。普段は21時にきっかり就寝しなければならない受刑者も、大みそかだけは0時まで起きていることが許される。その間には、NHK紅白歌合戦に限り最初から最後まで観ることができるそうだ。また、大みそかには「年越しそば」が支給される。基本的にはカップ麺であるが、受刑者にとっては塀の外の味であり、普段口にできないカップ麺は“ごちそう”なのだ。

 元日の朝には、おせち料理と餅が出る。おせちの大きさや内容は刑務所によって異なるが、ある刑務所の例では、トンカツ、チキンソテー、グラタン、海老塩焼き、鰆西京焼き、かまぼこ、紅白なます、黒豆、栗きんとんなど、受刑者が普段口にも目にもすることができない豪華な料理が、コンビニの幕の内弁当に似た容器に一口サイズずつ詰められているのだという。

「なんで犯罪者がそんな豪華なものを税金で食べているんだ!」と怒る人もいるかもしれないが、それは早計だ。これは「早く罪を償って刑務所を出れば、こんなに美味しいものがいつでも食べられるんだよ」と、早期矯正を促す刑務所側の姿勢の表れなのだとか。

 受刑者の食事については年間で予算が定められており、おせち料理を豪華にする代わりに普段の食材費を削っている、という裏事情もある。また、日々決められたスケジュールが多く、変化が極度に少ない刑務所では、イベントに応じて食事の内容を変えることによって、受刑者の心理的負荷を減らすよう努めているのだという。

 景気も悪く、収入も安定しない…。「こんなみじめな生活だったら、刑務所の中で暮らした方がマシだ!」という考えもあるかもしれないが、本書に書かれた実態を読むとやはり、刑務所の暮らしは甘いものではないということが深く理解できる。

 しかしそれでも、この社会になじむことができず再犯で刑務所に戻ってきてしまう人間がいる。報道でそんなニュースを見聞きしたら、罪を犯した当事者だけを咎めるのではなく、そうした再犯を生んでしまった社会的背景についても問題意識を働かせることが大切なのではと筆者は感じる。

文=K(稲)

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