子どもの抱っこもできない身長100cmのママの「がんばらない」ために頑張る生き方

暮らし

2020/2/6

『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 どんなときであっても、人生は自分の意思で決めて、前を向いて歩かなくちゃいけない。言い訳するのは自由だけれども、その言い訳は必ず自分に返ってくる。だったら、やっぱり前を向くしかない。

『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、生きる勇気と気づきを与えてくれる本だ。著者はコラムニストの伊是名夏子さん。

 伊是名さんは生まれつき「骨形成不全症」という障害があり、骨折しやすく、身長が100cm、体重が20kgしかない。だから車いすに乗って生活している。

 そんな伊是名さんはパートナーと出会い、結婚式を挙げて(夫婦別姓と決めているので事実婚)、なんと2児の母親になった。

 本書では、伊是名さんの妊娠から出産までの経緯が、当時の喜びとともにつづられている。妊娠前の産科の健診では、障害による差別でまともに診察してもらえないことがあった。はじめての妊娠では流産を経験して辛い思いをした。

 けれどもやがて信頼できる医師に出会い、ハラハラドキドキする瞬間を超えて、健康な子どもたちが誕生した。本書につづられる前向きな文章の連続に、掲載される幸せそうな写真に、とても勇気をもらう。

 そして待っていたのが、子育てだ。障害の有無に関係なく、どんなママだって育児は大変。ミルクをあげなくちゃいけないし、おむつを替えなくちゃいけないし、家事はやらなくちゃいけないし、とにかく24時間休みがない。伊是名さんは障害があるので、ひょいと子どもを抱っこすることもできない。

「重度訪問介護」という制度を利用して、10人のヘルパーさんに育児を手伝ってもらっているが、そうなるとヘルパーさん同士の連携も重要になってくる。人それぞれ家事や育児の対応が微妙に違うからだ。

 だから伊是名さんは様々な工夫をした。母親にとって子どもはお世話するもの。けれども「一緒にやろう!」と声をかけると、子どもはお手伝いをしてくれる。今では5歳の息子が幼稚園のお弁当や水筒を自分で洗っているそうだ。えらいなぁ。

 さらに「ヘルパーパーティ」なるヘルパー同士の交流会を開催して、お互いの信頼関係を築き上げた。顔を合わせて食事をするだけで、ヘルパー同士の連携が一気に変わる。どれだけネット社会が発達しようと、やはり私たちは人間なのだ。ここで伊是名さんの言葉を取り上げたい。

私が子育てで大切にしているのが「一人でやること」ではなく、一人ではできないことでも、どうやったらできるかを考え、「人と助け合うこと」です。
人の手を借りながら生活する私にとって「一人でできること」を重視されたら、何もできなくなってしまうからです。

 日本では「子育ては母親がひとりでやるもの」という意識が強い。けれども育児を、大切な命を、母親ひとりで背負うのはあまりに重い。昔は祖父母や親戚、そして近所の人々が連携しながら、みんなで子どもを育てた。だから地域に笑顔があった。今の時代は…ちょっと寂しい。

 できないときは、できないと言う。助けてほしいときは、助け合う関係を築く。たとえそれが他人であっても、一度顔見知りになれば他人じゃない。

 伊是名さんが本書で語るのは、自身の障害を受け入れた上で、いかに自分らしく楽しく生きるか。そのために様々な工夫を考えて実行する。「がんばらない」ためにがんばるのだ。

 本書の後半では、障害者として過去に体験した疑問に思う出来事、社会に対する提案や思いを述べている。読み手として感じるのは、物事を見つめる視線の大切さや障害に対する偏見に近い思い込みだ。

 今の日本社会に足りないのは、伊是名さんのような生き方と心の在り方ではないか。本書は生きる勇気と気づき与えてくれる。もっと毎日が楽しくなるヒントがいっぱいつまっている。

 人生には、楽しいときがあれば辛いときもある。楽しく生きられない言い訳をしても何も変わらないならば、前を向いて、楽しく生きられる工夫をしよう。それができないときは、誰かに助けてと言ってみよう。明日を変えるヒントは、私たちの手の届くところに転がっているはずだ。

文=いのうえゆきひろ