その少女は1974年から現われた!? 横浜から離島へやってきた少年と時を越えた少女、衝撃と感動のボーイ・ミーツ・ガール小説

文芸・カルチャー

2020/2/20

※「ライトに文芸はじめませんか? 2020年 レビューキャンペーン」対象作品

『どこよりも遠い場所にいる君へ』(阿部暁子/集英社オレンジ文庫)

 ここではないどこかへ、逃げ出したくなったことはないだろうか。仕事がつらい時、失敗が重なった時、人と関わるのが怖くなった時。人はほんのひと時心をまぎらわせるため、どこか遠い場所を夢想する。

『どこよりも遠い場所にいる君へ』(阿部暁子/集英社オレンジ文庫)に登場するのも、“遠く”へ逃げてきたふたりだ。ひとりは、横浜から離島へ。もうひとりは、1974年から現在へ。海を越えた少年と時を越えた少女は、小さな島で出会い、やがて恋に落ちる。そう、これは切なさと瑞々しさ、そして希望に満ちたボーイ・ミーツ・ガール小説だ。

 月ヶ瀬和希は、ある事情により横浜を離れ、離島の采岐島高校で寮生活を送る少年。島には「神隠しの入り江」と呼ばれる曰くつきの場所があり、和希はひとりになりたい時、しばしばその場所を訪れていた。

 夏の初めのある日、和希が入り江を訪れると、波打ち際に少女が倒れていた。身元不明の七緒は、どう見ても和希と同年代だが「1974年」からやってきたらしい。しかも、「どうして、まだ生きてるの」と意味ありげなひと言をつぶやき、和希を戸惑わせる。謎めいた彼女のことが気にかかり、和希は七緒を引き取った芸術家・高津の家に通うことになる。

 七緒は何者なのか。島に伝わる「マレビト」や「神隠し」との関係は? そして、和希が抱える秘密とは。中盤以降、さまざまな謎がするするとほどかれていき、ページをめくる手が止まらなくなっていく。思いがけない点と点がつながり、「そう来たか!」と驚くとともに、伏線が回収される気持ちよさも存分に味わうことができる。

 さらに、その過程で少しずつ心を通わせていく和希と七緒の姿が、なんとも爽やかで初々しい。最初は傷ついた猫のように警戒心をあらわにしていた七緒が、手作りの蒸しパンを振る舞ってくれたり、和希のピアノに合わせて歌ったり、少しずつ心を開きはじめるさまに思わずニヤニヤしてしまう。どうにもならない過去を背負っていようとも、残酷な社会に憎しみを感じていようとも、相手を大事に思う気持ちがあれば強くなれる。未来を信じて歩いていける。ふたりの姿からそんな優しいメッセージが伝わり、弱った心が励まされるはずだ。

 また、寮のルームメイトとの友情、口は悪いが面倒見の良い高津の過去などもストーリーに奥行きを与え、読者を飽きさせない(中でも、高津のカッコいいこと!)。離島の美しい情景も、物語を淡く優しく包み込んでいる。

 なお、本作の4年後を描いた続編『また君と出会う未来のために』も、胸を切なく締めつける感動作。主人公は大学生の爽太にバトンタッチするが、和希も重要な役として登場している。感動の余韻がさめないうちに、ぜひこちらも手に取ってほしい。

文=野本由起

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