40代で結婚! 生まれてあたふた! 新米おかあさんライフに共感の嵐

出産・子育て

公開日:2020/3/4

『おかあさんライフ。』(たかぎなおこ/KADOKAWA)

 気ままな一人暮らしから結婚、めでたく出産! こうしてはじまった育児生活を描くコミックエッセイが『おかあさんライフ。』(たかぎなおこ/KADOKAWA)である。

 育児の経験者であれば共感しまくって、かつ笑えるエピソードが満載。出産前のプレ親さんにもおすすめしたい作品だ。おかあさんライフはこんなに明るく楽しいのね…と思えるはずだ。

 レタスクラブに掲載された作品に加えて、描きおろしも収録。全編フルカラーなのもいい。さらに作風はほのぼのとしてゆるく、いつもの“たかぎ節”で描かれている。本稿のライターのように氏の既刊を読んできたファンも、きっと楽しめるはずである。

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■あるある! 共感しまくり! リアルおかあさんエッセイ

 たかぎなおこ氏の著作の多くはリアルエッセイコミック。『ひとりぐらしも何年め?』(KADOKAWA)、『150cmライフ。』(KADOKAWA)、などの暮らしもの。ひとり旅、グルメ、温泉などのテーマにそった旅シリーズ。いずれもたかぎ氏自身がゆるく暮らし、やりたいことを楽しむ様子を描いている。

 もちろん本作もリアルエッセイだ。『お互い40代婚』(KADOKAWA)で結婚した夫・おつぐやんとの間に、42歳にして子どもを授かる。そして娘であるむーちゃんを出産したことが最初に語られる。

 こうしておかあさんになったたかぎ氏は40代育児のしんどさに直面し、あたふたしながらも、むーちゃんとの親子ライフを楽しんでいく。

 なお本稿のライターは男だが、たかぎ氏と同年代。さらに40代で子どもを授かった。そのため本作のエピソードの多くに共感できたし、育児のおもしろさや大変さがリアルに語られていると感じられた。

 たとえば32ページ。出産後から退院するまでのエピソードでは、急な不安を感じて夫婦であせるシーンがある。

え…こんなふにゃふにゃな子を抱えてもう外の世界?

 私もこれと全く同じで妻子の退院時、強い不安にかられた。新米の親(しかもアラフォーの)と乳飲み子が、いきなり外に放り出されたように感じた。「ヤバい…」という感情がしばらく消えなかった記憶がある。のちに「当時のあなたは人が変わったように異常な心配性だった」と妻から指摘された。心の準備はもっと必要だったかもしれない。

 そして89ページ、“抱っこ紐”でむーちゃんと買い物に行った時のエピソード。子どもの相手をしつつ、買った物を袋詰めしてくれるスーパーの店員に、たかぎ氏はうれしいサービス! と好感をもつ。私も同様の接客を受けた時は、「えっ優しい! 世の中まだまだ捨てたもんじゃない!」と感動した。大げさかもしれないが、ちょっとしたことをサポートしてもらうだけで本当に助かるし、疲れていると人の優しさがいちいち身に染みるのだ…。プレ親さんたちには、出産後の世界は思ったより優しい、と言いたい。

 むーちゃんと共に成長し、ちゃんとおかあさんになっていくたかぎ氏。ただ37ページにはおにぎりと唐揚げだけのすがすがしいシンプル弁当を食べ、ノンアルコールビールを飲んでだらだらする場面も。

 私は「あー、これこれ! たかぎライフはこの感じ」とうれしくなった。あと、乳幼児期の外食はやっぱノンアルだよな…と、そこにも共感した。

■辛く苦しい…というけれど、ゆるく楽しく子育てしよう

 育児はカテゴリが非常に細かく分かれている。だからこうしたほうがいい、これが正解と言いにくい。たとえば正社員の共働きか、妻はパートか。保育園か幼稚園か。手助けしてくれる親の実家が遠いか近いか。住まいは持ち家か賃貸か。などなど、属性・カテゴリは多岐にわたる。

 だから育児エッセイは、よほど何もかも同じカテゴリでなければ完全な共感は難しく、自分はおもしろかったけど、他人におすすめするのはどうかな…と思うことも多い。

 たかぎ氏はマンガ家でいわゆるフリーランス。さまざまな理由で保育園には入れていない(長くなるので説明は割愛する)。近所にある夫の実家へ行き、子どもをみてもらっている間に仕事をしている。正直、環境が同じ人はそこまで多くなさそうな子育てライフだ。

 それでも本作は、育児コミックエッセイを読みたいという人にすすめたいと思う。その人がどんな育児環境であっても、である。

 なぜなら本作は悲喜こもごもの出産育児ライフを、繰り返すが明るくつづっているからだ。ハードで辛い部分よりも、楽しかったことを描いている。これなら出産育児を卒業した人なら楽しかったことを思い出せるし、プレ親さんも「子育ては不安だけど楽しいんだ」と思えるだろう。またあとがきにはこう書いてある。

赤ちゃんの頃はもう「なつかしいなぁ~」という気持ちになってしまいます。
そしてやっぱり「楽しかったなぁ…」とも思います。

 もしあなたがプレ親さんならおかあさんライフ(あるいはおとうさんライフ)に対して、たかぎ氏のようにゆるく、楽しもうとする気持ちをもってほしい。

 子どもに手がかからなくなるまではたった数年だ。

“数年だけ”がまんする、ではない。楽しめる時間は“数年しか”ないのである。

文=古林恭