東京封鎖、学校一斉休校、海外渡航者隔離…10年前に刊行されていたウイルスの脅威を描いた小説『首都感染』

文芸・カルチャー

2020/4/9

『首都感染』(高嶋哲夫/講談社)

 医学が高度に発展した現代社会において、新型コロナウイルスがこんなにも猛威をふるうとは思わなかった。「まさかこんな事態になるとは…」というのが多くの人の思いだろう。しかし、高嶋哲夫氏による小説『首都感染(講談社文庫)』(講談社)は、まさに、この事態を予想していたような小説だ。この作品は、2010年に書かれたフィクションだが、ウイルス感染症の広がりから国の対応まで、今の現実と恐ろしいくらい酷似している。その内容に驚きの声が広がり、10年前の作品だというのに数万部も増刷されたいま話題の小説なのだ。

 物語の舞台は、20XX年。中国でサッカー・ワールドカップが開催され、中国が決勝へと勝ち進んだこの時、スタジアムから遠く離れた雲南省では致死率60%の強毒性の新型インフルエンザウイルスが出現していた。中国当局は、ウイルスを封じ込め、これを隠蔽しようとするが、失敗。世界中から集まったサポーターたちが帰国することで、恐怖のウイルスは世界各国へと広がってしまった。

 日本では、元WHOの感染症対策チームのエキスパートで、医師の瀬戸崎優司がこのウイルスに立ち向かう。彼は、総理大臣である父・瀬戸崎雄一郎とともに、日本をウイルスの危機から救おうとするのだ。まずは、海外からの帰国者をウイルスの潜伏期間が過ぎるまでホテルに隔離。水際対策として検疫を強化し、空港を閉鎖した。だが、帰国者のひとりの身勝手な行動により、水際対策は破られ、都内でも患者が発生してしまう。そうして、総理大臣は、日本の生き残りをかけ、空前絶後の“東京封鎖”作戦を決断することになる。

 あらすじだけを読んでも、まるで今の事態を描いているような筋書きに驚かされるだろう。実社会で行われた、学校の一斉休校も遊園地の休園も当たり前のようにこの小説に登場する。小説では、日本は、いちはやく大胆な対策を行うことで、被害を最小限に留めた。一方、今の日本の対応は…。思わず小説の中の登場人物の勇猛果敢な姿と比べてしまう。

 だが、この本を読んでようやく心の底から理解できた。どうして外出を自粛すべきなのか。「都市封鎖」が有効なのか。必要なのは、徹底的な封じ込め。疑わしい者を隔離して、接触を避け、各自が消毒を徹底すること。「外出を自粛しろ」だとか「『3密』を避けろ」と言われるよりも、この本を読んだ方が実感として、そう思えるのだ。一人一人の行動が、誰かの命を救う一歩となる。逆に、誰かの身勝手な行動が、誰かの命を奪うことにつながることもあるのだ。

「2カ月も首都機能を止めると日本はどうなる。経済はガタガタになり、社会生活は破綻する。その間、都民はどう生活していけばいいんだ」
「それを日本中すべての地域で支えます。一つの都市機能を止める代わりに残りのすべてでその都市を助ける。そうしなければ、このパンデミックを乗り切ることは出来ません」

 小説の中では、行動が制限された東京都を全国各地の人たちが全力でサポートした。都市が封鎖されている間に新薬やワクチンの開発が進んだ。では、現実社会はこれから一体どうなるのだろうか。強力なウイルスと、国家の闘い。今こそ、日本の力が試される時なのだろう。この小説は、各人が行うべきことを示す道しるべとなるに違いない。

文=アサトーミナミ

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