麒麟・川島明の人生を辿るRPG風エッセイ! 「ドラクエ1」での悲劇、「シムシティ」から学んだこと……

エンタメ

公開日:2020/9/30

ぼくをつくった50のゲームたち

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
ぼくをつくった50のゲームたち
『ぼくをつくった50のゲームたち』(川島明/文藝春秋)

「ゲームの話」をするのは実はめちゃくちゃ難しい。まず立ちはだかるのは「ゲームをする人/しない人」の壁。どんなに有名なタイトルであっても、世の中全体からするとやったことのない人のほうがたぶん圧倒的に多い。それはマリオのようなビッグタイトルですらそうなのである。今、「マリオならやったことあるよ!」って思ったそこのあなた。それは「友達の家でなんとなく一回だけやったことあるかなぁ~」とかではありませんか?

 麒麟・川島明さんの『ぼくをつくった50のゲームたち』(文藝春秋)の「はじめに」には、こう記されている。

食レポの仕事で立派な松茸をいただいたときも「これマリオが食べたら都庁ぐらいでかくなるでしょうね」と言っては、ディレクターさんに「すみません、よくわからないのでもう一回お願いします」とご迷惑をかける始末です。

 泣ける。「マリオがキノコを食べると体が大きくなる」というゲーム界の常識は、テレビ番組の食レポでは「よくわからない」扱いなのである。

 これでは当然、ほかのゲームのネタでも通用しないのだろう。例えば、「有名人のおうちを大公開!」のような番組で、他人様のタンスを無遠慮に開けていくタレントに対して、「ちいさなメダルを探す勇者みたいですね」とか言うのもきっとダメ。人の家にズカズカと入ってタンスやツボやタルを漁る勇者、というのはドラクエにおける常識であり、「あるある」。でも、多くの人には何も伝わらないのだ。

 さらに、「ゲームをする人/しない人」の壁を乗り越えたとしても、今度は、「そのタイトルをプレイしたことがある/ない」の壁が出てくる。ドラクエの話ならやったことがあるから一緒に盛り上がれても、MOTHER2はやったことがないからわからない。FFの話ならできても、アンダーテールの話をされても困る、といった具合に。その上、RPGなんかはネタバレにも気を遣わなければならない。こんなにストーリーが面白いのに、ストーリーのどの部分がどう面白いのかを説明しようとするとネタバレになってしまうジレンマたるや!

 そんな難しさのある中で、『ぼくをつくった50のゲームたち』は、決してゲームがわからない人お断りの本ではない。ゲームそのものの話というよりも、ゲームにまつわる家族や友人とのエピソードを中心としたエッセイだからである。

「これは京都の宇治で生まれた少年が芸人になっていくというひとつのRPGです」とあるように、前半は少年カワシマとお兄さんとの思い出や、クラスの友達とゲームをしたときの出来事。中盤になると若手芸人時代のほろ苦い経験とともにあったゲームライフについて。終盤は芸人として自分らしく仕事ができるようになって以降の話。本の中で少年カワシマが青年カワシマになり、中年カワシマになっていくさまは、さながらドラゴンクエスト5のよう。

 それにしても、ゲーム好きが、好きなタイトルをネタバレ込みで語りたいのをグッとこらえ、そのゲームのことがわからない人に対しても楽しく読めるように書くのは、どんなに努力のいることか……! そのゲームをやったことのある人にしかわからないネタは、好きなタイトルであればあるほど挟み込みたくなるもの。そういうのはフレーバー程度に控えめに、本作では主に自分の周囲にいるキャラクターたち(家族や友人)のヘンテコぶりを勇者カワシマのユニークな物の見方で魅力的に描いている。

 最後に、個人的にこのカワシマクエスト(『ぼくをつくった50のゲームたち』)の中で好きなエピソードを“ネタバレ”込みで紹介して終わろうと思う。

・友人のコウダくんが始めた『ドラゴンクエスト1』を横で見ながらモンスターをスケッチする書記カワシマ。
・友人のモリくんは『ドラゴンクエスト1』のフィールドを伊能忠敬級の集中力で書きとめてマップを作成していた。
・『ドラゴンクエスト1』の、りゅうおうとの最終決戦にて。「もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを やろう」と言われて半分もらうほうを勧めたオオニシくん。その結果起こった悲劇によって、オオニシくんが次回から呼ばれなくなった話。
・コウダくんの『ドラゴンクエスト3』の中で「商人あきら」というキャラクターを作成した少年カワシマ。後日、商人が離脱するイベントで「商人あきら」がいなくなっていて落ち込む。
・『シムシティ』で市長を体験したことによって、当時実際に住んでいた宇治の街の市制に思いを馳せる。
・『ドラゴンクエスト5』で、結婚前夜のあの星空がどうしてもフローラを選ばせてくれない話。
・『おいでよ どうぶつの森』を彼女と一緒にやっていたら、通信で先輩の村に行ったウサギに「わたしはかわしまくんのところからきたのサ。かわしまくんはゆいちゃんといっしょの家に寝てるのサ」と同棲していることをバラされる。
・居酒屋にて見ず知らずの人と『カエルの為に鐘は鳴る』の曲の話で盛り上がった結果、その場でフィールド曲をピアニカで弾いてくれたという珍事。

 そしてページはエンディング(おわりに)へ。勇者カワシマは、「少年だった頃のぼく」に向けてこう伝えている。

きみが大事にしているドラクエ3のハンカチ。大人になるまで綺麗にとっておくと、ドラクエ生みの親の堀井雄二さんにサインしてもらえるよ。
(中略)
そして、35年後もきみはゲームが大好きだよ。
そしてそんなゲーム愛と思い出を一冊の本に書くんだよ。
どれも信じてもらえないかもしれないけど、全てはきみのゲーム愛が生んだ奇跡なんだ。
だからこれからも思いっきりゲームをやりなさい。

 勇者カワシマのRPG、プレイしてみたく(読んでみたく)なってもらえたとしたら、こんな嬉しいことはない。

文=朝井麻由美

この記事で紹介した書籍ほか

ぼくをつくった50のゲームたち

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
ISBN:
9784163912585