親族間での殺人事件が減少しないのはなぜか? 一般的な家庭に唐突にもたらされた7つの事件が問いかける真実

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公開日:2021/8/28

近親殺人―そばにいたから―

著:
出版社:
新潮社
発売日:
近親殺人 そばにいたから
『近親殺人 そばにいたから』(石井光太/新潮社)

 日本の殺人事件(認知件数)は、1954年の3081件をピークに減少傾向にあり、近年は800~900件台で推移している。ところが、家庭内を主とする親族間の事件はここ30年ほどで400~500件と長らく変わっておらず、むしろその割合が高まっている。具体的には、20年ほど前は全体の4割程度だったのが、近年では5割強に。石井光太氏の『近親殺人 そばにいたから』(新潮社)は、親族間で起きた7つの殺人事件の経緯や要因を記したルポルタージュである。

 留意すべきは、あまたある殺人事件の中でニュースや新聞で取り上げられるのは、無差別殺人や猟奇的殺人がほとんど、ということ。それも、話題にしやすいセンセーショナルな事件に注目が集まりがちだ。一方、本書が俎上に載せているのは、マスコミからは黙殺されてきたケースばかり。本書を読むことは、現実を直視し対策を講じるためにも意義があるだろう。

 取り上げられている殺人事件は、いずれも凄惨でむごたらしい。家庭内暴力、心中自殺、育児放棄、児童虐待など、目を覆いたくなるケースが多い。だが、どの事件も一見すると一般的な家庭内で起こったものであり、自分には関係のない特殊な例だと一蹴することはできない。本書に掲載された殺人事件のうち、筆者が重要だと思ったケースのあらましを紹介したい。

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【1】介護放棄:親の面倒を看る子ども(=介護者)がストレスにより心身の調子を崩し、冷静な判断ができなくなる。やがて被介護者に暴力をふるい、最後には殺してしまう。自分ひとりで介護を請け負うのが困難だと思ったのだろう。

【2】引きこもり:日本には100万人を超える引きこもりがいるとされるが、その半数は中高年である。引きこもりが長期化するにつれ、彼らの親は退職して収入源も途絶えてしまう。そうした中で、身勝手な言動を繰り返す息子の世話をするのに疲れ、我が子を殺めてしまった。

【3】貧困心中:経済格差が引き起こした事件である。加害者男性はリーマンショックの不況の中で借金を背負い、母親を巻き込んで無理心中を図った。

【4】老老介護殺人:かつて高齢者の介護は子ども世代の役割だったが、核家族が主流の現代にあっては、配偶者が高齢者の面倒を看るバターンが多い。しかし、介護疲れにより共倒れになったり、ストレスから虐待に走ってしまったりすることもあり、これはその延長で起こった殺人事件だと思われる。

【5】虐待殺人2019年度に児童相談所が対応した虐待件数は19万件以上。29年連続で増加しており、死亡事件は年間60~90件ほど。しつけと称して過度な暴力をふるい、殺人事件に至った。育児放棄をしても子どもは育つと勘違いしている親が多いのが問題だ。

 では、どうすればこうした事件を防げたのだろうか。石井氏の主張を一言で表すなら、第三者の関与が必要である、ということに尽きる。家庭内のみで問題を解決できないなら、救急病院、ケアワーカー、児童相談所、カウンセラーなどに相談し、公的な機関に助けを求めることが必要である、と言う。

 介護疲れで心身的なダメージを受けている人には、介護者をケアする「ケアラー」による支援が求められる。子育てで疲弊しているならば、育児指導、一時預かり、家庭訪問などを利用する手もある。要するに、家族内で問題を抱え込むのではなく、外部から第三者が介在することで、別の角度からの解決策が講じられる。石井氏はそう主張する。

 また、石井氏はコロナ禍での殺人について少し触れているが、これは重要な視点だ。ステイホームが推奨される現在、多くの人が家にこもることで、家族間での接触がそれまで以上に濃密になる。つまるところ、家庭内で摩擦や軋轢が起こりやすくなると考えられるのではないか。明日は我が身、ではないが、コロナ禍の今こそ手に取るべき本であるのは間違いない。

文=土佐有明

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