13年かけて“昭和の街並み”をジオラマで再現…全国55の『世にも奇妙な博物館』にご案内!

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更新日:2021/9/13

『世にも奇妙な博物館 未知と出会う55スポット』
(丹治俊樹/みらいパブリッシング)

「博物館」には、歴史や民俗、芸術などに関するさまざまな資料が保管・展示されている。日本でもっとも有名な博物館のひとつは、東京・上野にある東京国立博物館(通称:トーハク)だろう。同館には11万件を超える文化財が保管され、期間限定で重要文化財が展示される「特別展」は大盛況。国内外問わず、多くの人々が訪れる博物館だ。

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 トーハクのように日本屈指の名品が並ぶ博物館も魅力的だが、全国に点在する”ニッチなテーマ”を扱う博物館に心惹かれた経験はないだろうか。その土地の歴史や特産品をテーマにした博物館や、館長が長い年月をかけて集めたコレクションを展示する博物館など、その切り口は千差万別。場所によっては、有名な観光地に行ったときよりも強烈な旅の思い出になることもあるはず。

学校給食歴史館(埼玉県)

『世にも奇妙な博物館 未知と出会う55スポット』(丹治俊樹/みらいパブリッシング)は、その名の通り全国の”奇妙な博物館”に焦点を当てた一冊だ。

 著者の丹治俊樹さんは、日本中のマイナースポットを紹介するブログ「知の冒険」を運営するブロガー。近年では、博物館マニアとしてメディアでも活躍している。同書は、そんな丹治さんが自らの足で取材した55の博物館の見どころを写真と文章で紹介するビジュアルブックだ。彼は「奇妙な博物館」の定義について、冒頭でこう綴っている。

「本書で扱う博物館は、ちょっとフツーではない。かといって、意味不明な場所というわけでもない。じゃあどういう場所なのかというと、情熱を持ってただひたすらコレクションを集めて誕生した博物館があれば、(中略)忘れてはいけない史実を未来に残す使命で開館している博物館などなど。
 博物館だから展示物を見るのはもちろんなのだが、個人博物館ともなると、館長の人生をも垣間見られるところに、さらなる興味深さを感じることもある。」

 丹治さんが言うように、同書には個人の想いが詰まった個人博物館も多く掲載されている。兵庫県にある「昭和レトロ情景館」は、館長の加瀬さんが13年かけて作り上げた”昭和の街並み“がジオラマで再現されているという。

「昭和レトロ情景館」(兵庫県)

 50歳のときに趣味でジオラマ作りをはじめ、定年後に「昭和レトロ情景館」をオープン。建物をはじめ、街ゆく人や車、木々の一本一本に至るまですべて館長の手作りだとか。写真でも充分その精巧さは伝わるが、現物の迫力は現場でしか味わうことができない。

「白井そろばん博物館」(千葉県)

 そのほか、そろばん塾の元経営者が運営する「白井そろばん博物館」や、館長が40年かけて集めた3万点の洋酒コレクションを展示する「天領日田洋酒博物館」など、館長のこだわりエピソードが存分に楽しめるのも同書の魅力だ。

「天領日田洋酒博物館」(大分県)

 また、その土地との関わりが深いテーマを扱う博物館は、さまざまな学びを得られる。東日本大震災の爪痕を伝える「東日本大震災津波伝承館」(岩手県)には、ボロボロになった消防車や、津波が発生した当時の写真などが多数展示されているという。

「東日本大震災津波伝承館」(岩手県)

 同館を取材した丹治さんは、本書にこう記している。

「当施設では、過去の史実から『これからも地震や津波は起こるもの』と考え、『それを踏まえ、この地で暮らしていくためにどうすべきか』を伝えているのだ。」

 自然の脅威と戦い続けるのは困難だ。しかし、共存を模索することはできるかもしれない。「東日本大震災津波伝承館」は10年前の震災で得た教訓を肌で感じられる、唯一無二の博物館といえる。

 写真と文字をたどって訪れる、55の”奇妙な博物館”。気軽に旅行ができない昨今、同書を手に取り未知の領域に触れてみるのも一興だろう。

文=フクロウ太郎