八百万の神霊に愛された少女の恋と冒険、成長をやわらかなタッチで綴ったハイファンタジーが待望の書籍化!

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/28

神霊術少女チェルニ(1) 神去り子爵家と微睡の雛
『神霊術少女チェルニ(1) 神去り子爵家と微睡の雛』(須尾見蓮/opsol book)

 国民のほとんどが“神霊術”を扱う国、ルーラ王国。14歳ながら優れた神霊術の使い手である少女チェルニは、子どもたちの誘拐事件の犯人追跡に協力したことから、彼女自身の運命が動きだす。国の英雄である青年ネイラとの出会い。子爵家のお家騒動。さまざまな出来事が網の目のように絡まり、ついには王国を揺るがすほどの事態へ発展していく……。

 数多くの人気作家が生まれた小説投稿サイト『小説家になろう』で、累計ページビューが驚異の136万超え。44万人ものユニークユーザーを記録した話題の作品『神霊術少女チェルニ』が書籍化された。

 作者の須尾見蓮さんは、“菫乃薗ゑ”という別名で長編ファンタジー小説「フェオファーン聖譚曲(オラトリオ)」シリーズを発表している方。

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 本書は500ページ以上ものボリュームながら、チェルニの目線で独特の世界観や設定が分かりやすくも詳細に綴られてゆく。おそらくファンタジー小説を読み慣れていない読者にも、するすると入ってくるのではないだろうか。

 デジタル・アーティスト、watabokuさんの手による表紙装画の少女を見てみてほしい。吸い込まれそうな瞳と、有るか無きかの微笑。つややかなピンクブロンドの髪が神秘的な雰囲気を醸しだしている。

 表紙に描かれた、この14歳の少女チェルニが物語を牽引する。両親が営む高級宿兼食堂の〈野ばら亭〉を手伝いながら、学業も神霊術も非常に優秀。悩みといえば、学校を卒業後、地元の街の高等学校へ進学するか、それとも王都の進学校の受験に挑戦するかというくらいの、平穏で和やかな日々を送っている。

 そんな彼女の人生は、ある男性と遭遇したことで大きく旋回する。その人の名はレフ・ティルグ・ネイラ。神霊の体現者である〈神威の覡〉にして王国騎士団長を務める人物、いわば雲の上のような存在だ。

 そんなネイラと文通をするうちに、チェルニの中で彼の存在が次第に大きくなってくる。時を同じくして、姉アリアナの婚約者である騎士フェルトが、某子爵家の落胤であることが判明。その後継者争いにチェルニ一家も巻き込まれてゆく。

 西洋風ハイファンタジーを土台として、八百万の神々や祝詞といった神道の要素も盛り込まれ、それらが違和感なく溶け込んでいる。チェルニを見守る鳥の姿をした神霊、スイシャク様とアマツ様のマスコット的なかわいらしさや、各キャラクターたちが繰り出す個性的な神霊術。食事場面が随所に登場し、そのおいしそうな描写がまた猛烈に印象に残る。

 チェルニ一家をはじめとする善玉側と、悪玉にあたる子爵家一族のコントラストが明解に描かれているが、そんな中で、子爵家の手先でありながら、〈野ばら亭〉の人びとの優しさにふれ、じょじょに改心していく使者AとB(後にちゃんと名前も出てきます!)がいい味を出している。こういった脇役への目配りをきかせているところに、作者の心遣いを感じる。この物語を、この世界を心から愛していることが伝わってくるのだ。

 事件がいち段落した終盤に、チェルニがとうとうネイラへの気持ちを自覚して、この先は……!? というところで1巻は終了。この続きは今夏刊行される第2巻を楽しみに待ちたい。八百万の神霊に愛された少女の恋と成長、冒険は、まだ始まったばかりだ。

文=皆川ちか

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