トークは特殊スキル!? 『女ふたり、暮らしています。』の著者で人気のコピーライターが教える「話すことを話す」技術

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/2

話すことを 話す
話すことを 話す』(キム・ハナ:著、清水知佐子:訳/CCCメディアハウス)

 話し方を学んだことはあるだろうか。私たちは常に言葉を使っているのに、話し方を改めて習う機会はとても少ない。仕事や恋愛、人間関係は基本的に「話すこと」が重要な役割を果たすのに、だ。

 出版直後から、非常に話題になった『女ふたり、暮らしています。』の著者による最新刊『話すことを 話す』(キム・ハナ:著、清水知佐子:訳/CCCメディアハウス)は、心地よい人生を作る話し方とは何かが、エッセイとして綴られた本である。

 ポッドキャストなど、パーソナリティーとしても活躍する著者の言葉選びは、とても丁寧で適切。自らの経験をもとに、話すことの難しさと面白さ、そして「女性が」話すということについて、やわらかな言葉で私たちに語りかける。

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丁寧に、誠実に人と向き合って話すとは

 この本が女性だけのものかというと、そうではない。人前で話す、誰かと話す機会が多い人にとってなるほど! という気づきに満ちている。例えば、著者はインタビューやトークの前に、「マインドマップ」を活用するそうだ。

 マインドマップとはひとつのキーワードを中心にし、枝のように関連するキーワードを生やすことで思考を整理する方法。これをコミュニケーションに使うとは驚いた。

 ポッドキャストの進行をする際、ゲストの名前を中心に書き、枝を生やしておくのだとか。例えば、気になる人と会う時に、簡易なマインドマップを作ってから会ってみる。きっといつもより手ごたえを感じられるはずだ。

「私たちにはまだ、謙遜する権利はない」

 2018年、韓国では銀行が、「性差別採用」を行っていることが明るみに出て、問題となった。女性と男性の採用比率を、予め1:4にしていたそうだ。酢の物の比率じゃあるまいし、冗談じゃない。しかし悲しいかな、日本でも似たようなことはゴロゴロ起きている。

 筆者は「女性が発信すること」の重要性を、本の中で繰り返し説く。女性は己を過小評価しがちの「謙遜病」である一方、自分がきちんと仕事をしていれば、会社が認めてくれるはずだ、と信じている。しかし、それではちゃんとアピールする人に対抗するのは難しい。特に、女性の場合は。

私達は謙遜を美徳だと学んだし、確かにそれは正しいけれど、本人の成果が正当に認められないときは美徳とは言えない。

 正当に認められていないうちは「謙遜する権利がない」という言葉は、理性的かつ論理的で、ハッとさせられた。

マイクの前に立とうというエール

「聞くときはその瞬間にいる」「説得は魅惑に勝てない」など、丁寧に、誠実に人と向き合い話す方法はまだまだたくさん紹介されている。

 人を傷つけない言葉で話す、と決めている著者の語り口は、常に落ち着いている。本なのに、翻訳なのに、話し方が想像できる。実際本の中にポッドキャストのQRコードがあるので聞いてみると、(韓国語はわからずとも)想像した通りの「話す人」だった。

 現状向けられたマイクの数自体が少ないのだから、しっかり前に立とうというエールは、きっとあなたを「話す人」にする力を与えてくれるはずだ。

文=宇野なおみ

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