「マイナスの考えから、なかなか抜けられないのはなぜ?」/『気にしすぎる自分がラクになる本』④

健康・美容

公開日:2019/9/27

悩みから抜けられない原因は、心の本質にあった

 さらに、マイナスの考えが一度定着してしまうと、ふしぎなことが起きます。マイナスの行動が好きになるのです。実際に、私は治療をする中で、そのようなケースを何度も目の当たりにしています。

 世の中には、怒ることが生きがいになっている人がいますね。彼らは怒ることがエネルギーになっていて、世の不正に怒り、政治に怒り、他人に怒って、しょっちゅう裁判を起こしたりしています。つねに何かと戦っていないと、生きている実感を持てないのでしょう。

 同様に、悩むことに全エネルギーを傾けてしまう人もいるのです。もちろん最初からそうだったわけではありません。ただ、しょっちゅう悩んでいるうちに、あるときから悩むことにのっとられてしまうのです。

 似たような例が、「溜め込み症」の人たちです。溜め込み症の人は、物を過剰に集め、さらに集めた物を捨てられない傾向にあります。ゴミ屋敷と呼ばれるような物だらけの家に住んでいる、片づけられない人の中には溜め込み症の人がいます。

 物に埋もれたゴチャゴチャの部屋などには足も踏み入れたくないというのが、ふつうでしょうが、当人たちは散らかり放題の部屋の状態にすっかり慣れてしまっています。慣れてしまうと、人間は変化を嫌うようになります。

 ゆがんだ思考、マイナスの考えの中で長い期間、悩みつづけていると、片づけられない人たちと同様に、その状態に慣れ親しむようになって、自分を変えたり、現状を変えるのが億劫(おっくう)になってしまうのです。

 こういったことになるのは、私たちの心の奥底にある怠惰のせいです。どんな人であっても、頑張るよりも怠けるほうが楽ですよね。何かを変えるときには、私たちが考えるより多くのエネルギーが必要になります。別に変えなくていいのであれば、何も変えずに現状に身をゆだねていたい……それが、心の本質です。

 心に深い傷を負い、もがき、苦しんでいるうちに、その痛みに慣れてきて、苦しい状態にいることが当たり前になる。そして、そこから抜け出そうという気持ちが徐々に薄れていきます。

 つり橋で落ちそうになったトラウマがある人が、やがてつき動かされるようにバンジージャンプをするようになるという事例もあります。これなどは、このような心の動きの格好の例でしょう。これは「トラウマの再演(再演技化)」と呼ばれます。

 心に深い傷を負うと、同じ状況を今度こそ自分の力でコントロールしようとして、無意識に自分をその状況の中におこうとしてしまうのです。

 悩みグセのある方の中では多かれ少なかれ、以上のような心のメカニズムが働いています。

 あなたはどうでしょう。

「悩むのがいやなのに悩むのをやめられない。なぜ自分はつらいことをくりかえしてしまうのだろう」そんな感覚を覚えたことはないでしょうか。

 ここまで、クヨクヨの原因ともいえる「物事を否定的に受けとる考え方」について、心理療法的な視点で考えてきました。

 実は、物事をマイナスのパワーで受けとめてしまう心の動きには、これまでの人生経験や、さらには脳や神経の働き方も関係していることがわかっています。

 次の章では「物事をマイナスに決めつけて考えてしまう理由」を、より多方面から掘り下げていきます。

 あなたを悩ませる「クヨクヨ」の本当の原因により近づけるはずです。

<第5回に続く>

長沼睦雄
十勝むつみのクリニック院長。北海道大学医学部卒業。HSC/HSP、発達障害、発達性トラウマ、愛着障害などの診断治療に専念し、脳と心と体と魂を統合的に診る医療を目指している