イヴォン・シュイナード「プライベートと仕事を切り離して考えない」/天才たちの習慣100

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公開日:2022/5/20

 世に名を馳せた天才たちによる、「毎日実践していた習慣」や「日々思い描いていた人生哲学」、「経験から生まれたマイルール」などなど…。その「効果」「効能」を、『すぐに真似できる 天才たちの習慣100』(教育総研/KADOKAWA)からご紹介します!

「LET MY PEOPLE GO SURFING(社員をサーフィンに行かせよう)」

 アメリカの登山用品、サーフィン用品、アウトドア用品などの製造販売を手がける会社がパタゴニアです。1993年、世界ではじめてペットボトルなど再生ポリエステルを使用したフリースを発売するなど、環境に配慮した商品を製造することで知られ、また、積極的に環境問題に取り組んでいます。

 パタゴニアを創業した人物は、イヴォン・シュイナードです。

 14歳の時にクライミングをはじめたシュイナードは、当時、クライミングの際に使われる軟鉄製のピトンが、いったん打ち込んだら二度と抜けず、岩にたくさん打ち付けられていることに心を痛めていました。そこでシュイナードは、独学で鍛造(たんぞう)を学び、繰り返し使えるピトンを製造します。これがクライミング仲間からの評判を呼び、パタゴニアの創業に繫がりました。

 さて、現在ではアウトドア用品といえばパタゴニアといわれるほど有名なメーカーとなりましたが、シュイナードの習慣を象徴する言葉が、「好きな時にサーフィンに行っていい」というものです。

 これはパタゴニアの社員向けに彼が投げかけた言葉で、もしも社員がサーフィンが苦手ならば、ジョギングでもサイクリングでも山登りでも構わないそうです。

 シュイナードが2006年に出版した本のタイトルは『LET MY PEOPLE GO SURFING』。日本語に訳せば、「社員をサーフィンに行かせよう」となります。彼は同書の中でも、このように述べています。

「いい波が来ているのにサーフィンに出掛けないなんて、どうかしている」

 確かにサーファーなら、サーフィンに適した波が来ているのにオフィスでせっせと仕事をしているなんて、人生を無駄にしているようだと感じるかもしれません。しかし、仕事は仕事。サーフィンするのによい波が来ているかどうかなんて、一般の社員には関係ないように思えます。

 でも、シュイナードはそうは考えません。なぜ彼は、社員をサーフィンに行かせるような経営哲学を抱いているのでしょうか?

「仕事中、サーフィンが出来る」とはどういうことを意味するのか?

 いくら会社の創業者が「好きな時に、サーフィンに行っていい」といったところで、本当に実現可能なものなのか? この言葉には、イヴォン・シュイナードのどんな思想が含まれているのでしょうか?

 彼のこの言葉に込められた第1のメッセージは、「仕事のスケジュールは自分で管理する」ということ。

 とえば、サーフィンが好きな社員が勤務時間内に海岸へ行くとすれば、当然、その時間にこなす予定の仕事は後回しになります。しかし、それは自分の責任によって、残業あるいは休日出勤でカバーすることはできます。

 働く時間をいつにするのか? いまは遊ぶ時間ではないのか? そういった判断は上司に相談することなく、自分自身で決定すべきであるというのが彼の理念なのです。

 また、このことは、社員の仕事環境が整っていなければ実現できないことをも意味しています。社員が「サーフィンに行きたい」と思っていたとしても、彼が普段からよい仕事をし、同僚と良好な関係性を築いていないことには、好きな時にサーフィンに行くことはできないでしょう。

 そういう意味では、「好きな時にサーフィンに行く」というのは、実は厳しい自己管理能力の先に実現可能なことなのかもしれません。社員に自由を最大限に与えることによって、社員同士の協調性を高め、会社全体の効率性を向上させる。それが、シュイナードの経営理念の根幹です。

 また、「仕事と家庭と遊びを切り離してはいけない」ということもシュイナードの考え方の1つです。この考えは、パタゴニアが30年以上前から企業内に託児所を設けていたことからも明らかです。

 当時、全米で託児所を設けていたのは150社あまりでしたが、その中の1社がパタゴニアでした。これまた社内に設けられたカフェテリアで親子がともに食事をとり、庭では子どもが走り回って遊んでいる。そんな和みの風景は社員の心に安心感を与え、社内全体を穏やかにします。

 イヴォン・シュイナードの、「社員をサーフィンに行かせよう」という考えには、実は高度な経営哲学が内包されているのです。

【プラスα】スポーツをすると、脳の能力がアップする
水泳やサイクリングなどの有酸素運動は、体内に酸素を取り入れて脂肪や糖質を燃焼させていく運動です。この有酸素運動時、セロトニン、ドーパミンなどの成長ホルモンが特に分泌されやすいことが研究から分かっています。これらのホルモンが気分を向上させることも判明しています。さらに、運動することが脳のニューロンの成長を促すことも分かりました。つまり運動することで幸福感が味わえ、脳の能力もアップするということのようです。シュイナードの思想は、脳の研究から見ても正当なもののように思えます。

天才たちの習慣

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