一筋縄でいくわけがない! 7つのタイプにみる「結婚」がテーマの漫画

マンガ

公開日:2020/6/27

 6月といえばジューンブライド。昔から、この月に結婚した花嫁は幸せになれるといわれています。今年は残念ながら新型コロナウイルスの影響で結婚式が延期になっているケースが多いようですが、夏以降、少しずつ挙式ができるような状況になればいいですよね。そんな願いを込めて、「結婚」をテーマにした漫画をご紹介したいと思います。正統派ラブストーリーから、ハチャメチャな夫婦生活まで、多種多様なカップルたちの結婚をご覧ください。

住み込み家政婦との波瀾万丈の恋
『赤ちゃんと僕』(羅川真里茂/白泉社)

『赤ちゃんと僕』(羅川真里茂/白泉社)

 事故で母親を亡くした小学生の拓也と保育園児の実の兄弟を中心に繰り広げられる笑いあり、涙ありの傑作漫画。母である由加子は、連載当初から顔と名前だけは出ていましたが、その人となりは長らく謎のままでした。その全貌がようやく明らかになったのが13巻。父・春美が、由加子と出会い、結婚するまでのエピソードが描かれています。

 2人の出会いは、弁当屋で働いていた18歳の由加子を大学生の春美がナンパしたのがきっかけ。両親を亡くした春美は、天涯孤独だった由加子を住み込みの家政婦として自宅に住まわせます。かなり思い切った設定ですが、孤独に喘ぐ2人がお互いに惹かれあうのは必然だったのかもしれません。

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 そうして同居生活が始まったものの、遊び盛りの春美は無断外泊、異性交遊と、やりたい放題。筆者は、久々にこの話を読んで、「春美ってこんなにやんちゃだった!?」と驚きました。そんな春美を、由加子は懸命に待ち続けるのです。やがて由加子が妊娠したことをきっかけに2人は結婚します。結婚式のシーンは「俺と由加子は2人だけの式を挙げた」という1コマのみですが、笑顔の2人が印象的! 夢だった温かい家庭を築いた由加子でしたが、それからわずか10年後にこの世を去ってしまうのです…。なお、このエピソードを読むと、最終巻の感動が倍になります。

本能のまま動くエキセントリック嫁!
『夫婦(めおと)サファリ』(ジョージ朝倉/祥伝社)

『夫婦(めおと)サファリ』(ジョージ朝倉/祥伝社)

 漫画家でバツイチのジョーのもとに、ある日突然転がり込んできたのは、編集者で元漫画家の日歌(にちか)。「私の漫画をパクったことをバラされたくなければ」と脅され、半ば強制的に結婚することになったジョー。唐突に始まった2人の結婚生活を、笑いあり、愛ありで描いたのがこの作品です。

 物語は、新婚旅行から始まります。場所は日歌の希望でアフリカ。大自然の中、カバもサイも、当たり前のようにつがっている光景を目にし、ジョーは“結婚とは何か、夫婦とは何か?”を考え、悩みます。結婚を、食うか食われるかの動物の世界と重ねていたのかもしれません。

 一方、妻の日歌は冷静です。「結婚して、子供を産みたいから」という理由で、7年間ヒモだった元彼を捨て、条件が良かったジョーに結婚を申し込むという、エキセントリックガールです。野性的で本能のままに行動する日歌に、ジョーは、どんどん惹かれていきます。ところがその矢先、日歌が元彼と再会しているのを見てしまい…!? 超個性的な夫婦の、独特な愛の形が心を揺さぶります。なお、本作は既刊2巻で現在休載中。連載再開が待たれます。

親族のアポなし訪問もトルコじゃ普通
『トルコで私も考えた』(高橋由佳利/集英社)

『トルコで私も考えた』(高橋由佳利/集英社)

 トルコの男性と結婚した作者が、現地での生活を描いたコミックエッセイ。トルコ人の文化や考え方、食べ物、コミュニティまで、本当に生活のすべてが克明に描かれています。

 トルコでの花嫁修業のエピソードが描かれているのが第2巻。トルコ人は家族の絆が非常に強い民族です。ある日作者が家で夫の帰りを待っていると、近所に住むほぼ初対面の親戚家族が総出で来訪。夕食を食べていないと言うやいなや、親族が買い物に走り、台所に立ち、あれよあれよと夕食の支度を始めます。夫が帰ってきた頃には食事とチャイが用意され、みんなは自分たちのチャイを飲んで帰っていった…という嵐のようなエピソードが。日本ではなかなか考えられない距離感ですよね。

 また、この巻では出産と育児についてのエピソードも収録。トルコでは、子供が生まれるとすぐに青い目のついたガラスのお守りを服につけるそう。悪魔がその可愛さに嫉妬しないようにという願いが込められています。悪魔が嫉妬するので、赤ちゃんのこともあまり褒めてはいけないんだとか! 文化の違いを感じます。発売されたのが20年以上前なので、情報としては古いところもあるとは思いますが、国際結婚や、トルコのカルチャーを勉強したい人におすすめです。

逃げていてるのは結婚? それとも…。
『逃げても逃げても』(ねむようこ/小学館)

『逃げても逃げても』(ねむようこ/小学館)

 漫画家のサキと、恋人のみいくんは、付き合って5年、一緒に暮らして3年。結婚の話もちらつきますが、「この歳になったら結婚」という世間の流れに乗りたくないサキは、のらりくらりとかわします。果たして、2人は結婚するのか? しないのか!? 何か大事件が起きるわけではないけれど、2人のなんてことない日常が温かく描かれている、繰り返し読みたくなる作品です。

 さて、タイトルの「逃げても逃げても」の意味ですが、サキとみいくん、それぞれ違うものから逃げています。サキは、漫画家という仕事柄、定期的にやってくる締切。しかし、逃げたところで結局逃げ切れず、「どうせ明日また追いつかれるんだし」と開き直ります。一方みいくんは、「大きなひまわりのようなもの」から逃げる夢を見ます。ハラハラドキドキするあれは何だったんだろう? と考えるみいくん。最終的にその「ひまわりのようなもの」は、サキだということに気が付きます。作中では終始、みいくんがサキを追っているように見えますが、実際にはみいくんを頼りにしているのはサキのほうだったわけです。最終話を読んだあと、みいくん視点で初めから読むと、また別の楽しみ方ができます。

意地っ張り大工さんの渾身のプロポーズに涙
『ちいさこべえ』(望月ミネタロウ/小学館)

『ちいさこべえ』(望月ミネタロウ/小学館)

 作家・山本周五郎の時代小説『ちいさこべ』が原作の漫画。火事で実家の工務店「大留」が焼け、両親を亡くした若棟梁・茂次。意地っ張りな茂次は、周囲からの援助をことごとく断り、自分の力で、大留を再建することを誓います。そんな茂次のもとに転がり込んできたのが、身寄りのないお手伝いのりつと、行き場を失った福祉施設の子供たち。予期せず、大家族になった茂次は、無事に大留を再建することができるのでしょうか? …というのが、作品の大筋。ここに茂次とりつのラブストーリーが加わってきます。りつは比較的最初のうちから、茂次への恋心を匂わせるものの、茂次は仕事でそれどころじゃありません。おまけに、子供たちが次から次へと問題を起こすので、2人ともその対応に追われっぱなし。しかし、共に問題を乗り越えていくうちに、茂次もりつに惹かれていきます。クライマックスで、ついに茂次がプロポーズ。いつも不器用で意地っ張りな茂次が、このときはじめて素直に自分の想いを口にするのが泣けます。また、りつがずっと綺麗な花嫁さんに憧れていた…という伏線も相まって、最終話の結婚式は本当に感動的です。心が疲れているときに読みたくなる一冊。

お見合い結婚のスタートは価値観のすり合わせ
『われなべにとじぶた』(山田可南/集英社クリエイティブ)

『われなべにとじぶた』(山田可南/集英社クリエイティブ)

 結婚といっても、恋愛結婚だけがすべてではありません。この作品はお見合い結婚をした2人が主人公。市役所に勤めるこず江と、郵便配達員の暎人は、お見合いしたその日に結婚を決めます。のんびりした2人が、お互いを思いやりながら絆を深めていく物語です。

 お見合い結婚の2人は、お金の使い方から、家事分担、お風呂の入り方まで、生活の価値観をイチから共有していくことになるのですが、夫婦間のルールを話し合うシーンが面白い。共働き夫婦なので、家事は分担制。掃除は、掃除機係と水廻り係を週替わりで担当。ゴミは朝早く出るほうが出す。夕食は仕事が終わる時間が同じときは、一緒に買い物をしてから一緒に作る。そして洗濯物は自分のものは自分で…など。こず江と暎人のルールを見ていると、家庭内の家事分担について、話し合いたくなります。「当番制は我が家と同じ」「洗濯はまとめてやったほうが経済的では?」など、ディスカッションのいい材料になりそうです。家事の分担に困っている人は、ぜひ参考にしてみてください。

天才はプロポーズも合理的
『イタズラなKISS』(多田かおる/集英社)

『イタズラなKISS』(多田かおる/集英社)

 ドジでおバカな琴子と、超天才の入江くんが織りなすラブコメディ。琴子はあの手この手で入江くんにアタックしますが、想いは届かず。そうこうしている間に、ついに入江くんは別の女性とお見合いをすることに! いよいよ琴子の恋もここまでか…からの、逆転劇が始まるのが10巻です。

 友達の金之助からのプロポーズを断った琴子。雨の中歩いていると、目の前に入江くんが現れます。実らない恋に疲れたと叫ぶ琴子に、入江くんまさかの平手打ち(!)。そして優しくキスをして「オレ以外の男 好きなんて言うな」と囁くのです。この不器用な入江くんの愛の告白に、何人の乙女が悶えたことでしょう。そしてその足で家に帰り、家族の前で結婚宣言をするのです。さすが入江くん、無駄がありません。入江くんのママの策略により、2週間後に結婚式を挙げて、2人はめでたくゴールインしました。驚くべきは、じつに9巻半もの間、恋の追いかけっこを繰り返していたにもかかわらず、入江くんが自分の気持ちに素直になって2人が結婚するまではコミックス半分にまとめられているという点です。これが普通の少女漫画だったら、琴子への思いに気づいた入江くんがあれこれ思案するターンが始まりそうなものですが、天才なのでそんな葛藤はいらないんですよね。何歳になってもずっと入江くんが好きです。

 こうして作品を並べてみると、カップルによって結婚の価値観は様々だということに気づかされます。とはいえ、時代がどんなに変わっても、結婚が人生における大きな転換点であることは変わらないようです。そして、大恋愛だろうと、お見合いだろうと、国際結婚だろうと、一度結婚してしまえば、そのあとはみんな平等に、日常が始まっていきます。気になる作品があれば、ぜひ読んでみてくださいね。

文=中村未来(清談社)