獲物を串刺しにするヤバすぎる鳥? 『ざんねんないきもの事典』今泉忠明さんが監修、生物の“怖い”を解剖する『ヤバすぎ! 超危険ないきもの図鑑』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/2/18

ヤバすぎ! 超危険ないきもの図鑑
ヤバすぎ! 超危険ないきもの図鑑(今泉忠明:監修、森松輝夫:イラスト/双葉社)

 子供たちが放っておいても勝手に勉強し、詳しくなっていくジャンルの一つが「生きもの」だ。驚くほど詳しい“生物博士”になってしまう子供も珍しくないし、そうした興味は、やがて理科や生物、さらには科学的な物の見方へと自然につながっていくことも多い。だからこそ、大人が子供に手渡す「動物の本」には、面白さと同時に、内容への信頼感も求めたくなる。

 その点で強く印象に残っているのが、「ざんねんないきもの事典」(高橋書店)シリーズだ。スカンクはおならが臭いほどモテる、サイの角は実はただのイボにすぎない――そんな意外性のある話を笑いながら読めるのに、生物学的にはきちんと正確で、進化や生き延びるための工夫まで自然と理解できる内容だった。

 そんな「ざんねんないきもの事典」シリーズの監修者である動物学者・今泉忠明さんが監修する新刊が『ヤバすぎ! 超危険ないきもの図鑑』(今泉忠明:監修、森松輝夫:イラスト/双葉社)だ。今泉さんの名前があるだけで、「ただ刺激が強いだけのネタ本ではないだろう」という安心感があったが、実際、読んでみると期待に違わぬ内容だった。

「残酷」の裏に隠された、驚くほど合理的な生存戦略

 タイトルやビジュアルはかなり攻めているが、本書の軸は一貫している。それは、「危険ないきもの」を、単なる恐怖やショックとして消費しないことだ。

 たとえばモズがカエルや虫などの獲物を枝に突き刺す習性。一見すると残酷だが、「保存食としての意味がある」「ちぎって食べやすくなるから」といった諸説が紹介されている。生きものの残酷な行動をただ「怖い!」で終わらせず、生物の習性や進化に想像を膨らませて、考えさせてくれる内容になっているのだ。

 また、アフリカのカラハリ砂漠には、体長がわずか40〜50cmほどとイエネコよりも小さいクロアシネコがキリンを襲ったという伝承がある。その伝承の中で、クロアシネコはキリンの「頸動脈」を狙ったと書かれているのだが、そのディテールも面白い。「小さな捕食者が大型動物に挑むなら、どこを狙う必要があるのか」という合理性も示されるので、「小さな動物が大きな動物に挑む凄い話」を「生き延びるための戦略」へと読み替えることが可能なのだ。

血を吸う小鳥、毒を持つカニ――「ヤバさ」が教える進化の奥行き

 本書には、インパクトの強い生物が次々と登場する。同じ鳥類の血を吸って生きるハシボソガラパゴスフィンチ、生きもの界でも最強クラスの毒を持つマウイイワスナギンチャク、人間の体内にまで侵入することで知られる魚・カンディル……。

 どれもショッキングなエピソードだが、「もともとはダニなどの寄生虫を食べていたが、そのうちに血肉までつつくようになり、血の味を覚えた」(ハシボソガラパゴスフィンチ)という進化の過程が説明されるなど、豊かなディテールには学びも多い。

 そうした危険な生きもののなかには、強毒のカニであるスベスベマンジュウガニ(名前がかわいい!)など、日本や日本近海に生息する生物も登場する。また、動物園のゴリラの“ウンコ投げ”など、子供が大喜びする動物の必殺技も複数登場するので、子供の興味は自然と惹きつけられるだろう。

 第5章の「どっちが強い?」対決などは、特に子供が喜びそうな内容の白眉。イノシシVSクマ、ニホンミツバチVSオオスズメバチといった、想像するだけで盛り上がる組み合わせが登場しており、ニホンミツバチが集団でオオスズメバチに勝つ戦略などは、大人が読んでも思わず感心してしまった。

 なお本書のまえがきには、「驚きとともに疑問を持って読んでください」という言葉がある。

 なぜ毒を持っているのか。なぜ牙があるのか。なぜ人を殺してしまうのか――。危険な生きものが、なぜ危険なのかを考えていくと、そこには単なる驚きや怖さを超えた、生きものの進化や奥深さが見えてくるのだ。

 同時に、生きものについては、「実は分からないことだらけ」という率直な視点も示される。危険な生きものがなぜ危険なのかは、進化の過程で解き明かせるケースもある一方で、「たまたま毒を持ってしまっただけ」という可能性もあるのだそうだ。

 そうした“分からなさ”が残されている点も、この本の面白さだ。その先を自分で調べてみるのもいいし、調べても答えが出ないまま終わるのも、それはそれで面白い。生きものの不思議さと奥行きに、自然と触れられる一冊だと感じた。

文=古澤誠一郎

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