死刑確定の「歌舞伎町の狂王」と呼ばれたヤクザ? 愛と暴力にみちた半世紀を辿る最凶ヤクザの一代記『血は争えない』【書評】
PR 公開日:2026/4/22

『血は争えない』(深町秋生/双葉社)は、昭和から令和を駆け抜け「狂王」と呼ばれたヤクザの、濃密な一代記である。
平成22年、ある男の裁判が行われていた。
新宿を本拠地とする暴力団岡谷組の組長・不破隆次(ふわ・りゅうじ)。彼は凶悪事件の犯人として、おそらく死刑となる。にもかかわらず不遜な態度を崩さない。そればかりか公判中に大暴れし、裁判所を強制退廷させられる。
「この血こそが本物だ」と、叫ぶ不破。
彼の口にする「本物」の意味をひもとくかのように、物語は初めて不破が新宿に足を踏み入れた時間へとさかのぼる。
昭和45年、不破は15歳。東北の方言が残る幼い彼は、「新宿の王大偉(おう・たいい)があなたの父親」という母親の遺言を信じ、新宿・歌舞伎町へとやって来た。王大偉は台湾人実業家で歌舞伎町を牛耳る総帥。政界やヤクザとも黒い繋がりを持つ権力者だ。
場末のストリッパーだった母親から、いつも昔話を聞かされていた不破。「あなたは華麗なる『王』の一族の息子」だと。その血統に誇りを持つ不破は、父親に会うため高層ビル一室の事務所を訪れる。
だが王はおらず、彼の正妻の二人の息子だけがいた。突然現れた田舎の青年に、当初二人は腹違いの弟だと認めなかったものの、不破と同じく妾腹の兄・暴力団岡谷組の若頭・近藤(こんどう)の仲裁もあって父親の王と対面。実の息子だと認めてもらえる。
不破は近藤の生き様に憧れ、彼のように「華麗なる王一族の守護者」になりたいと極道へ。王一族に降りかかる問題事を、日の当たらない場所から「暴力」で守るヤクザとして、その地位を確固たるものにしていく。
だが不破は、ある出来事をきっかけに「抗えない血の宿命」――自分は「本物」か「偽物」という葛藤に苛まれるようになる。
本作を読む前、「バイオレンスあり、お色気ありのハードボイルド小説的な感じかな?」などと勝手に内容をイメージしていた。
確かに暴力的なシーンは多く、過激かつ精緻に情景が描かれるため、心臓がヒヤッとなる展開も多々あったのだが(ちなみにお色気シーンは特に無く、むしろ純愛要素の方が強い)、本作は想像よりも重厚な「家族」と「血」の物語だった。
不破がヤクザになった理由は、「同じ血を継ぐ一族を守りたい」という想いゆえだ。母子家庭で育ち、小さい頃イジメられて左目の視力を失った彼にとって、「血の繋がった家族」は、かけがえのない存在なのだ。つまり彼の凄惨な暴力の裏には、「家族を守りたい」という多くの読者が共感できる普遍的な想いがあり、彼が認識しているかは分からないが、「もう、一人にはなりたくない」という、幼い子供のような欲求があるように感じた。
読者は「歌舞伎町の狂王」の心の奥にある「けなげさ」や「葛藤」を感じられるからこそ、不破という男に、この上ない哀愁を感じるのではないだろうか。
兄貴分の近藤もいい。ヤクザの顔だけではない任侠の粋、器の大きさ。さらには愛妻家かつ子煩悩という……男女問わず惚れさせる魅力があった。
加えて、戦後から平成にかけての新宿という街の移り変わりが濃密に描かれており、その変遷と共に不破という男の人生を感じ入ることができたのも、本作の満足感が強い一因だと感じた。
不破、近藤、他にも紹介しきれないくらい、様々な生い立ち、悲哀、情念を持つ男たちが多く出てくるのだが――彼らの哀愁に、グッと胸を掴まれるはずだ。
文=雨野裾
