周東佑京選手はなぜ「打率」を目標から外したのか? ビジネスにも効く、ホークス日本一を支えたメンタルコントロール術【書評】

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PR 公開日:2026/5/11

集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術
集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術(伴元裕/Gakken)

 スポーツ選手はよく「ゾーンに入る」という言葉を使う。集中が研ぎ澄まされたとき、「自分の心臓の鼓動が聞こえた」「ボールが止まって見えた」などと口にするのを聞いたことがある人も多いだろう。

 では、プロの選手たちはどのようにして、そうした集中しきった状態にたどり着いているのか。またその状態は、一般の人の仕事や私生活でも実現・応用が可能なのか――。

集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』(伴元裕/Gakken)は、そんな問いへの答えを丁寧に解きほぐしてくれる一冊だ。

 著者はプロ野球・福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチ。2025年シーズン途中からはベンチにも入り、現場からチームに関わりながらリーグ優勝・日本一達成を支えた人物だ。

「逸れることは前提」という、目からウロコの集中力論

 本書が提案するのは、集中力の定義そのものを更新することだ。

 集中力とは「集中し続ける力」のことではない。「注意が逸れることは前提であり、そのことに気づき、必要な場所へ戻し直せる力こそが集中力です」と著者は書く。

「物事に集中しようとしても、すぐ別のことに気が逸れてしまう」と悩んでいる多くの人は、この「逸れることが前提」という言葉に解放感を覚えるだろう。

 不安があってもいい。緊張していてもいい。感情は否定しなくていい。

 どんな状態であっても、前に進むための「注意の戻り先」をあらかじめ設計しておく──この発想の逆転にこそ、本書が掲げる「集中力革命」の核心がある。

 また著者は、感情や思考をコントロールしようとすること自体が集中を乱す原因になる、とも書いている。

「緊張してはいけない」と意識した瞬間に「緊張」という言葉が頭に浮かぶように、頭に浮かんだ雑念は、抑えようとするほど注意をそこへ引き寄せてしまう。だからこそ、注意が逸れる前提で「注意の戻り先」を作っておくことが大事なのだ。

野村勇、周東佑京……ホークスの選手たちが実践する集中の技術

 では、「注意の戻り先」はどのように設計するのか。

 著者は、野球のようなプレーの実行中は「行動目標」──今・自分で・できる、注意を向ける対象そのもの──に注意を戻し続けることが基本だと言う。

 本書では目標を「行動目標」「結果目標」「パフォーマンス目標」の三層に分けて、整理するフレームを提示しているが、野球の打者でいえば「相手投手のリリースやフォーム全体」「ボールの軌道」などが行動目標にあたる。一方の結果目標は「ホームランを打つ」「試合に勝つ」など。パフォーマンス目標は「ミート率を向上する」といった具合だ。

 打席に立つバッターが、長期的な結果(成績)目標よりも目の前のボールの軌道に集中したほうが良い結果が残せる……というのは納得できる話だ。一方で、それを安定的に実践するのは難しい。それを意識的に設計し、実践し続けるところにこそ、メンタルコーチとプロ選手ならではの仕事があるのだ。

 本書に登場するホークスの選手たちのエピソードは、その仕事ぶりを具体的に伝えてくれる。

 たとえば2025年の日本シリーズでも活躍した野村勇選手は、飛距離はあるがミート率に課題があった。そこで著者と野村選手は、「ミート率の向上」をパフォーマンス目標に置いたうえで、打席で実際に注意を向ける対象──つまり行動目標──を二つに絞り込む作業を実践。野村選手は、注意が逸れてもその二つに淡々と戻し続けたという。その結果、打率2割7分1厘・12本塁打・102安打といずれもキャリアハイとなる成績を収めた。

 また結果目標の置き方を、著者とともに工夫した選手もいる。

 たとえば周東佑京選手は、打者としての目標設定のひとつを「打率」ではなく「安打数」に置いていた。打率は数字に一喜一憂しやすく感情の揺れ動きも生みやすいが、安打数は一本一本の積み重ねで「次の一本を狙いにいく」前向きな思考に切り替えやすい。大きな結果目標を「積み重ねられる対象」に置くことにより、周東選手はキャリアハイに近い安打数を記録したのだ。

 集中力は才能ではない。だから、誰でも身につけられる

 本書を読み終えると、冒頭に書いたスポーツ選手の「ゾーンに入る」体験が、特別な精神力や生まれ持った集中力の産物ではないことに気づかされる。

「うまくやろうとする前に、『今、自分で、できる』ことに注意を戻していく。逸れたことに気づいたら、また戻る。その繰り返しです」

 この著者の設計のなかで、注意を目の前に戻していく地道な作業により、プロのスポーツ選手の高い集中力は成り立っている。高い集中力とは、“気持ち”や“根性”に左右されるものでも、才能や性格の問題でもなく、あらかじめ整えられた「設計」と技術で作れるものなのだ。

 だからこそその技術は、スポーツの現場にとどまらず、仕事や日常を生きるすべての人に開かれている。部下や上司が集まる会議でも、PCと向き合うデスクワークでも、注意が逸れるたびに戻す仕組みを設計しておくことで、どんな状態でも前に進み続けることができるのだ。

文=古澤誠一郎

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