【米津玄師、YOASOBIら大躍進】なぜいまJ-POPは世界でヒットを連発できるのか? どん底の「音楽不況」から劇的変化を遂げた3つの力学【書評】
PR 公開日:2026/5/14

先日、カリフォルニアで「コーチェラ・フェスティバル2026」が開催され、オンラインで視聴した日本の音楽ファンもかなり盛り上がっていた。コーチェラはジャスティン・ビーバーやサブリナ・カーペンターら世界的なビッグスターがヘッドライナーをつとめる世界最大級の音楽フェスだが、日本からはCreepy Nuts、藤井風らが出演。近年「日本の音楽が世界で存在感を示している」と言われるが、その現状がリアルに伝わってくる出来事だった。
彼らばかりではない。米津玄師、YOASOBIらもグローバルチャートのトップ10にランクインするなど、現在のJ-POPシーンを代表するアーティストたちは続々と海外に進出し、ワールドツアーも大盛況だという。いつのまに日本の音楽はこんな活況を呈するようになったのか。音楽ジャーナリスト・柴那典さんの新刊『ヒットの復権』(中央公論新社)は、2020年代に劇的に変化した日本の音楽をめぐる状況をつぶさに点検し、ヒットの力学を考える一冊だ。
本書が検証していくのは2016年から。その年に著者は『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)を上梓したが、当時の日本は「音楽不況」の真っ只中にあったという。CD販売は低迷し、売れるものといえば特典が封入されたアイドルのCDばかり。ヒットチャートも形骸化し、もう「国民的ヒット曲は出ない」と言われていた時代だった。それが2020年代に大きく様変わりし、世界で聴かれる「ヒット曲」が連発されるようになるのだ。
変化のきっかけはYouTubeやSNS、そしてSpotifyなどのストリーミングサービスの登場といった「プラットフォーム」の進化だ。「やはりそうか」と思うかもしれないが、それらが生まれただけですぐに世界が変わるわけではない。大事なことは、それらがどのように使われたのか。たとえばSNSでネタとして多数の人が話題にしたことで「バイラルヒット」が生まれたり、世界で人気の「アニメ」とJ-POPが強く結びつくことで世界的ヒットにつながったり…。本書では現在のヒットの力学を、この「バイラル」「アニメ」「プラットフォーム」の3つの視点から読み解いていく。
ちなみに、当然ながらこの3つが揃ったからといってすぐにヒット曲が生まれるわけではない。たとえば「関連動画」などでピックアップされるなど、意図せぬバックアップがなければ、この情報の海の中では存在にすら気が付いてもらえない可能性もある(著者はそれを「アルゴリズムの女神の微笑み」と呼ぶ)。だが完全に先を読みきれないからこそ「クリエイティブ」が大事なわけで、さまざまな関係者(アーティスト本人も含む)の証言を通じて、そのリアルが少し体感できるのも面白い。
いまや日本発コンテンツの海外売上は約5.8兆円となり、半導体や鉄鋼を超える規模に成長。日本政府もコンテンツの海外普及に積極的で、音楽業界と政治の関わりも深まってきているという。音楽業界は世の中の変化の波をいち早く映す「炭鉱のカナリア」とも言われるが、時代を正しく捉え、その先を見据えるために、コンテンツビジネスやメディアなど、少なくともエンタメに興味のある人は読んでおいたほうがいいかもしれない。
文=荒井理恵
