乳がんになった梅宮アンナの赤裸々な闘病記。がん当事者ならではの視点で見つけた家族との絆、そして下着開発という新たな仕事【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/6/19

フルコースがんと私と家族の日々
フルコースがんと私と家族の日々(梅宮アンナ/文藝春秋)

フルコース がんと私と家族の日々』(梅宮アンナ/文藝春秋)は、モデル・タレントである梅宮アンナ氏が綴った闘病記である。また、闘病を通じて家族と向き合った日々の記録でもあり、「がん」と「家族」というふたつのテーマを結ぶ、珠玉の体験記とも捉えられる。

 著者の梅宮氏は2024年8月、乳がんであることを公表した。表題に掲げられているフルコースとは、抗がん剤、手術、放射線治療といった標準治療を、すべて組み合わせた治療プランのことを指す。芸能活動をしている彼女が、がんであることを世間に隠さず明かしたこと、そして免疫療法ではなく標準治療を選択したこと。それぞれの背景にあった葛藤や、起こったことの記録が具体的かつ生々しく、冒頭から一気に引き込まれる。1章から2章にかけては、がん告知から抗がん剤治療までの様子が描かれている。

 3章は一転し、がん当事者ではなく、がんと闘う人の家族としての経験が主軸となる。著者の父であり、俳優・タレントである梅宮辰夫氏も、がんと闘い続けた人物だった。生涯で6度もがんになった男について娘の視点から語る3章は、病気と共に生きることについて改めて考えるきっかけをくれる内容だ。父がどんな治療を受け、何に苦しみ、どんなふうに生涯を終えたのかをそばで見たからこそ、著者の梅宮氏は、今度は自身が当事者としてどう生きるか、より解像度高く想像できたのかもしれない。

 4章は手術と放射線治療を経てフルコース治療を終えるまでの日々、そして5章以降は、人生の転機において揺れる家族への想いが深く語られている。がんは一人で受け入れるのではなく、大切な人や家族と共に乗り越えていくものなのだと、本書を読んで感じた。著者は治療を続けていくことの苦しさから、何度も心が折れそうになる。そのたびに彼女の心を支えていたのは、娘の存在と、父と過ごした思い出だった。また、母は著者にとって複雑な感情を抱く存在であったが、闘病中、母のマイペースな様子に笑みがこぼれるシーンが多い。

 絶望的な状況でも決してあきらめることなく、ポジティブに現状を受け止めて夢を描く著者の姿に心が震えた。モデルとして活躍していた著者は、特に髪が抜けることに対して抵抗があり、ならば治療を受けないという選択すら検討していた。しかし、治療を受け入れる覚悟を決めてからは、高品質なウィッグを手に入れ、複数のウィッグを使い分けることを楽しむようになっている。そして胸を片方切除したあとは、その状態に合った形の下着の必要性を感じ、商品開発へと想いを馳せている。がんになったから何もできないのではなく、がんになったからこそできる新しい仕事に取り組む彼女の姿勢は、多くのがん当事者の希望になるだろう。

 がんと闘っている当事者、あるいは共に闘っている家族には、ぜひ読んでほしい。人それぞれ置かれた状況や、最適な選択は異なるということを大前提として、病気と、そして家族とどう向き合っていくか、そのスタンスについて共感できるところがきっとあるはずだ。

文=宿木雪樹

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