三島由紀夫『愛の渇き』あらすじ紹介。なぜ彼女の恋は殺意に変わったのか? 愛に飢え、嫉妬に狂った女のエゴ
更新日:2026/8/22
ドラマ「Tシャツが乾くまで」に登場し、物語の重要なカギになるかもしれないと話題になっている、三島由紀夫の『愛の渇き』。夫を亡くした悦子の異常なまでの独占欲とエゴ、そしてドロドロとした情念の歪みを描いた本作は、三島の冷徹な心理分析が冴え渡る傑作として評価されています。本稿では、三島由紀夫『愛の渇き』のあらすじを紹介します。

『愛の渇き』の作品解説
『愛の渇き』は1950年に発表された、三島由紀夫25歳の頃の長編小説。大阪の豊中市にある農村がモデルと言われています。戦後の虚無的な空気が漂う中、登場人物たちの心に潜む「精神の飢え」と、愛されたいという渇望が暴力へと反転していく過程が描かれた作品です。
『愛の渇き』の主な登場人物
杉本悦子:度重なる不倫で彼女を苦しめた夫を亡くした未亡人。
杉本謙輔:悦子の夫で、弥吉の長男。文学的知識はあるものの、定職にも就かず遊び暮らす。
杉本弥吉:悦子の亡き夫の父親(舅)。元実業家。
三郎:杉本家に雇われている、10代の若く素朴な庭師。
美代:杉本家に仕える女中。三郎と恋仲になる。
『愛の渇き』のあらすじ
主人公の悦子は、夫の絶え間ない浮気によって地獄のような嫉妬を経験した。その夫が若くして病死した時、彼女の胸の内にあったのは悲しみではなく、むしろ夫の肉体を独占できた清々しさですらあった。
未亡人となった悦子は、大阪の郊外にある舅・弥吉の農園に身を寄せた。舅やその親族、使用人たちとの共同生活の中、やがて彼女は愛情がないにもかかわらず、舅の求めに応じて彼の愛人となる。またその傍ら、彼女は農園で働く若い庭師の三郎に対して密かな恋心を抱くようになる。
しかしある日、女中の美代の妊娠が発覚する。その父親が他でもない三郎であることを悟った悦子は、またしても苛烈な嫉妬に苛まれる。日々嫉妬心で自らを痛め続けた悦子は、ついにその苦境に耐えられなくなり、美代を屋敷から追放することを決意する。
そしてついに、深夜の庭で悦子と三郎は対峙する。ここで初めて悦子の思いに気づいた三郎は、彼女に歩み寄り、体を覆いかぶせてこれに応えようとした。しかし、悦子は咄嗟に三郎を突き飛ばし、鍬を振り下ろして彼を惨殺してしまう。一部始終を目撃した舅が怯えながら死体の隠蔽を図る傍らで、悦子は不思議なほど穏やかな表情を保っていた。
文=K(稲)
<第100回に続く>
