歌人・穂村弘が講評 『短歌ください』第221回のテーマは「獣」
公開日:2026/9/10
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年9月号からの転載です。

今回のテーマは「獣」です。秀歌が多くて選ぶのが難しかったです。
●それぞれの膝の上にひとつずつの獣を乗せて僕らは祈る
(あらたき・男)
「動物病院はペットよりも飼い主のほうが緊張している気がします」という作者のコメントがありました。その状況がこんなふうに言語化されたことで、特別な風景が見えてきました。「ひとつずつの獣」がトーテムめいたニュアンスを帯びている。
●プロポーズされて見たのは四つ足の獣になって走り去る夢
(牧角うら・女・30歳)
「プロポーズ」と「獣」が結びつく面白さ。普通に断ったり逃げたりするだけでは足りなかったのでしょう。
●図書館に行くふりをして自転車でヌートリア探ししていた夏は
(久藤さえ)
「写真で見たヌートリアの実物が見たくて、あちこちの川に行っていました」との作者コメントあり。特別な「夏」の思い出。何故「ヌートリア」なのか。何故「図書館に行くふり」をするのか。わからないけど青春の煌めきを感じます。

●交配の日は鶏卵を飲まされて夜の犬小屋獣臭する
(四四十六・男・67歳)
「展覧会に出場する、血統書付きの『いい犬』を産ませようと、昭和40年頃、父はやっきになっていました」との作者コメントあり。精をつけるということでしょうか。実体験の生々しさを感じます。
●せんべいのうまさを知った人間が鹿を押しのけ群がってくる
(汐留ライス・男・50歳)
発想がユニーク。悪夢的なホラーのワンシーンみたいです。
●よく見たら合わせ鏡の中のぼく奥にいくほど獣っぽいね
(山下ワードレス)
「合わせ鏡」の魔力なのか。時間を遡って先祖返りをしているのかもしれません。
●みて爪を!みてこの牙を!少女たち熊の毛皮を被って笑う
(川嵜ななせ(直))
「小中学校(北海道)には熊の剥製の開き?が何体もありました」との作者コメントあり。「少女たち」が「熊」に変身する呪術的な遊び。きらきらした時間の流れを感じます。

では、次に自由題作品を御紹介しましょう。
●調味料マジックハンドで取る祖母は工夫だらけの家に住んでる
(猪山鉱一・男・24歳)
「調味料マジックハンドで取る祖母」の面白さ。どんな「家」なのか見学させてもらいたい。
●「どの髪型でも好いてくれるはずだ」と親切蟹が伝えに来る
(シラソ・女・41歳)
「親切蟹」って何だろう。異世界の美容師を想像しました。
●校庭に正確な円を描いていく物理教師の体育祭
(全美)
「体育祭」における「物理教師」なりの活躍。適材適所の美しさを感じます。

●フードコートの席取りに残された赤ちゃん一人見つめる虚空
(宮澤美夏実)
「席取り」に「赤ちゃん」って大胆すぎる。「赤ちゃん」本人にはそんな自覚はまったくないところに惹かれます。
●枇杷の実がつまったパック幾人か兵士の首が混ざりこんでる
(とんこつ)
不穏な幻視の歌。「春の夜によそふシチューのごろごろとこどもの顔沈みゐるごとく」(睦月都)を連想しました。
●あの子の髪が川みたいに輝いて こいの滝登りを夢見てる
(伊藤美優・女・17歳)
その「川」の中に飛び込みたかったのか。憧れの表現が鮮烈。

●誰とでも仲良くなれるから彼のあだ名は一時期「友達」だった
(稲野・男・25歳)
そんな「あだ名」があったとは。そういえば、先生って「あだ名」の人はいたし、恋人って「あだ名」もあり得るのかも。
●スーパーの出口で傘を差したままパックジュースのストローを刺す
(栗子守熊)
どうしても飲みたかったんですね。快適さからほど遠い状況が〈今ここ〉の実感を強めている。

次の募集テーマは「読書」です。読書は永遠の喜び。色々な角度から自由に詠ってみてください。楽しみにしています。
また自由詠は常に募集中です。どちらも何首までって上限はありません。思いついたらどんどん送ってください。
絵:藤本将綱
ほむら・ひろし●歌人。歌集に『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』など。他の著書に『にょっ記』『短歌の友人』『もしもし、運命の人ですか。』『野良猫を尊敬した日』『はじめての短歌』『短歌のガチャポン』『蛸足ノート』『満月が欠けている』など。『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。デビュー歌集『シンジケート』新装版が発売中。単行本最新刊『短歌ください 反対に回して篇』好評発売中!
