話題沸騰! カラテカ・矢部太郎が描く、大家さんとのほんわかした日常『大家さんと僕』【インタビュー】

エンタメ

2017/11/23

大家さんはゆっくり話すし、ゆっくり食べるし、ゆっくり歩く
そのテンポとか空気感が、漫画に出ているのかもしれないですね

『大家さんと僕』(矢部太郎/新潮社)

 お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんが、大家さんとの実話にもとづく心温まるエピソードが詰まった漫画作品『大家さんと僕』(新潮社)を上梓されました。舞台となるのは1階にご高齢の女性大家さん、そして2階に矢部さんが住む一軒家というかなり変わった物件。どうしてひとつ屋根の下に住むことになったのか? なぜ大家さんとのエピソードを漫画にしたのか? ご自宅の近所で、じっくりとお話を伺ってきました!


矢部太郎(ヤベ・タロウ)
1977年東京都生まれ。高校の同級生だった入江慎也と97年に「カラテカ」を結成(ボケ担当)。また個性派俳優としてドラマや映画、舞台でも活躍している。気象予報士の資格を持つ。父親は絵本作家のやべみつのり。

■きっかけは大家さんと出かけたホテルのティールームでの出来事

――『大家さんと僕』は、どんなきっかけで生まれたんですか?

矢部 大家さんとホテルのティールームでお茶をしていたら、以前お仕事をご一緒した倉科遼先生がたまたまいらして「何してるの?」と。どんな関係なのか聞かれたので「大家さんです」と言ったんですけど、納得してもらえなくて(笑)。それで「仲良くて、旅行とかも一緒に行ったんです」と漫画に描いたようなエピソードを話したら興味を持たれて、「面白いから作品にしてみなよ」と勧めてくださったんです。

※倉科遼……漫画原作者。代表作に『女帝シリーズ』『夜王』『嬢王』など。

――矢部さんが現在住んでいる部屋はもともと二世帯住宅だった家の2階、階下にはとても上品な80代の大家さんがひとりでお住まいというかなり変わった物件ですが、なぜここへ住むことに?

矢部 もともと近くのマンションに住んでいたんですけど、部屋で過激なロケをした番組をマンションの大家さんに見られてしまって、引っ越しを考えてもらえませんか、と……それから新しいところを探していたんですけど、ちょうど「僕の家にいらない物を持ってくる」というロケがあった後で、フルセットのひな人形とか荷物がたくさんあって。なので不動産屋さんで「広い部屋ありませんか?」と聞いたら、すぐ近所にこういう物件がありますよ、って出てきたのが今の部屋なんです。それで内覧へ行ったら、いきなり大家さんからウォシュレットをいただいて。

――え!?

矢部 住むと決めたわけじゃなく、部屋をみるついでに大家さんへご挨拶に行ったら「ごきげんよう」とおっしゃられて、ごきげんようと言う方に初めてお会いしたので、すごい方だなぁって思ってたらなぜか「ありがとうございます」って。それで「これあるんですけど、使い方がわからないから」とウォシュレットを手渡されたんです。それで僕、「ああこの部屋とは長い付き合いになるな」と契約を決めました。


――大家さん、矢部さんに住んでもらうの、即決だったんですか(笑)。それから丸8年お住まいとのことですけど、漫画では当初大家さんとの距離感に戸惑っていましたね。

矢部 ずっとひとり暮らしをしていたので、人から干渉されない素晴らしさを感じて生きてたんです。しかも僕は人見知りなところもあって。でもこの部屋に越してきてからは「さっき帰ってきたの?」とか「昨日遅かったわね」と大家さんに言われて、なんかお金払って実家に住んでるみたいな感じで。最初はそんなことを知り合いに愚痴ったり、大家さんから電話があっても出なかったりしてたんです。



――それがお茶や食事をしたり、一緒に伊勢丹まで買い物に出かけて、一緒に旅行へ行くまでになるわけですよね?

矢部 家賃が手渡しなので、毎月必ず大家さんの部屋の玄関まで行くんですけど、毎回お茶に誘われてたんです。でも普通、だいたいみんな断ると思うんですよ(笑)。それでずっと断ってたんですけど、さすがにもう断れないなと思ってお邪魔したら、絵がいっぱい飾ってあって、ティーポットでお茶が出てきて、お茶菓子もあって、ステキだな~って。それでお話ししたら、どういう方なんだろうと興味が湧いたんです。それから「桃をむいたのでいかが?」とか「台風来るから木を縛ってくださらない?」みたいにどんどん距離が縮んでいって。一緒にシャンソンを聞きに行ったこともありますよ。

■トリビュート? オマージュ?……いえ、インスパイアです!

――これまでもネタや楽屋での話で、矢部さんと大家さんのエピソードはウケていたそうですね。

矢部 はい。今日も大家さんとお茶したと言うと「大家さんとつき合っちゃえよ!」みたいに言われたり、予定を聞かれて「その日は大家さんと出かけるんで、他の日にしてもらえませんか?」とお願いすると「なんなんだ」とか思われたりしてたと思うんですけど、今回こうやって一冊になったことで、ようやく大家さんと僕の実態を知ってもらえました! 帯の文を書いてくれた平愛梨ちゃんはキャイ~ンの天野さんの「天野会」で会うお友達なんですけど、「感動しました!」ってメッセージをくれました。

――でもなぜ漫画でやろう、と?

矢部 知り合いの芸人がネタで使う小道具の絵を僕が描いたりしていたので、描くことは好きだったんですけど、漫画は全然描いたことがなくて。でも大家さんとの出来事って漫画っぽいな、と思ったんです。「エアコンの調子が悪くて……見てくださる?」と言われていろいろやってみて、結局リモコンの電池を替えたらついたとか。漫画ならそういう経験をリアルに描けるかな、と思ったんです。

――帯文で漫画家の東村アキコ先生が「エッセイ漫画って難しいんですよ。普通は面白くなんないんですよ。なのにいきなり面白いってどういうことですか!」と書いてらっしゃいますね。

矢部 僕は東村先生の漫画が大好きなんですけど、漫画ってどう描き始めたらいいのかわからなかったので『かくかくしかじか』を読んでみて、そうか第1話ってこうやって描けばいいんだって思って、完全にパクって……というか、えーっと……トリビュートというか、オマージュ、というか……あ、インスパイアです! 1話目ってこうやって描くんだ、というのを教わった感じでした!(笑)

――インスパイア(笑)。でも8コマでひとつのエピソードになっていて、それが緩やかにつながり、しかも独特のテンポや間がある簡潔な描き方など、他にない感じの漫画だと思いましたよ。

矢部 大家さんが読みやすいように描いているんです。『小説新潮』での連載になったのも、読書家の大家さんに喜んでほしい、ということもありました。まあこの内容だと、少年誌とか青年誌は絶対ムリだなって思ってましたけど。連載中は大家さんに「続き、まだなの?」っていつも聞かれてました。「本になるんです」って伝えたら「いつかしら? 楽しみ」って言われて、良かったな~って。

――まさに大家さんファースト! それにしても『大家さんと僕』って、ひとコマひとコマゆっくりじっくり読みたくなる不思議な雰囲気があるんですよね。漫画って結構サーッと読んでしまいがちなんですけど、この世界にのんびり浸っていたいと思わせる……この感じって、なんなんでしょう?

矢部 実際、大家さんといるとそういう時間の流れなんですよ。ゆっくり話すし、ゆっくり食べるし、ゆっくり歩く。そのテンポとか空気感が、漫画に出ているのかもしれないですね。


■大家さんからの「記憶のバトン」

――矢部さんが気に入ってるエピソードをおしえてください。

矢部 エピソードというよりも、ディテールですね。大家さんとうどん屋さんへ行く「うどんとホタル」という回があるんですけど、「このお店にはよく来られるんですか」って聞いたら、「戦前はこの辺りでここにしか電話がなくて、電話をかけに来てたの」「この辺の川にはホタルがいたの」と言われて、こういうのって住んでるだけじゃ絶対わかんないことだし、漫画を描くならそういうことを描きたいなって思ったんです。こんな話はトークライブではできないし、もしそんな話をしたら、入江くんに「お前何が目的なんだよ!」ってツッコまれます!



――確かに壮絶にツッコまれるでしょうね……その回はとても静かなトーンで、昔との対比がユーモアを交えて描かれていました。

矢部 本当はどうだったかとか、もしかしたら違うところもあるかもしれないな、っていうのはあるんですけど、そこには大家さんなりの歴史があって、僕はそれを聞いているのが楽しいし、大家さんも「こういう話を覚えててほしいわ」みたいなことをおっしゃってました。最近はみんな忘れちゃってるけど、大変だったのよあの頃は、って。

――大家さん、ご自分の「記憶のバトン」を矢部さんに渡したいんでしょうね。

矢部 そうかもしれないですね。大家さんと一緒に新宿を歩いてると、今はこんなにキレイになっちゃってるけど、昔は闇市があって、でも中村屋は当時からあったの、みたいな話をされるんです。僕はちょっと想像できないから、そういう話を聞くと面白いんです。しかも大家さんは昔からあるお店しか行かないんですよ。

――「うどんとホタル」でもチェーン店にはまったく気づいてなかったですもんね。“大家さんEYE”にしか見えない風景があるんでしょうか?

矢部 ここ(取材場所のレトロな雰囲気の喫茶店)は来ますよ。大家さんにはちゃんと見えているみたいです(笑)。それにしても大家さんとのこういう話をこうやって描きたいなぁ、と思っていたことが描けたので、本当に良かったって思います。

■できればずっと住み続けたい!

――周りの反応はどうですか?

矢部 結構みなさん読んでくれていて、千原ジュニアさんには「おもろいな」って言っていただきました。面白いなんてジュニアさんに言われたことなかったので、うれしかったですね。あとは板尾創路さんやほんこんさん、そして吉本の岡本副社長も大笑いして読んでいた、という話も耳にしました。岡本さんが大笑いなんて、カラテカでは起きない事態ですよ!(笑)

※岡本副社長……岡本昭彦。吉本興業代表取締役副社長。ダウンタウン、今田耕司などのマネージャーを務め、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』にブリーフ一丁で猫を抱く「岡本マネージャー」として出演していたことも。

――絵本作家であるお父様のやべみつのりさんは何かおっしゃってました?

矢部 実際の家族よりも大家さんの方がよく会ってるんですよ、僕(笑)。父も読んでくれているみたいで、担当編集さんで太郎と会いたいっていう人がいるから、絵本のプロットを用意しとけって言われたこともありました……ただ僕も恥ずかしいんで、自分から感想聞いたりとかはしてないですけど、喜んでくれてるみたいです。

――絵本を描く予定もあるんですか!

矢部 いやいやいや!(苦笑)

――ではコッソリ期待しつつ……本書の帯に「新しい家族のかたち」という言葉がありましたが、大家さんと矢部さんの関係を見て、ひとり暮らしが増えているこの時代、血縁だけではない、こういう住み方や地縁の人との関係って今後ますます大事になってくるんだろうなと感じました。

矢部 これを描いたら「私もそう」っていう人が結構いたんです。住んで大家さんと仲良くなって、一緒に旅行行ったとか、毎日お茶するとか、何かあった時用のお金の隠し場所も聞いてる、という人もいました。芸人のもう中学生も大家さんと仲良くて、ネタ用のダンボールを置かせてもらってるそうです。ひとり暮らしの人は寂しさもあるし、孤独な人同士でそうやってつき合っていくのもありなのかなって思いますね。

――老若男女問わず、単身世帯って増えていますからね。

矢部 僕は今の家に引っ越してから「悪いことできないな」って思うようになったんですよ。大家さんもご近所さんも知り合いだから、ゴミもちゃんと出すし、掃除とかもするんです。「隣の人なんてどうでもいい」なんて思うと、ギスギスしますからね。だから今の家はいいなって思います。『大家さんと僕』を読んだ方からも「家族ってこういうものなんじゃないか」って考えてくれたりする人もいますから、すごいなんか、そういうのうれしいです。


――帯文を書いている能町みね子さんが、矢部さんと同じように大家さんと近しい生活をしていた神楽坂のアパートでの話をまとめたエッセイ『お家賃ですけど』は矢部さんの愛読書だそうですね。

矢部 今の家に引っ越した頃に読んでいて、すごく近い生活をしているなって思っていたんです。今回大家さんつながりで、能町さんとオードリーの春日俊彰くんと『波』(2017年11月号 矢部太郎『大家さんと僕』刊行記念座談会 矢部太郎×春日俊彰×能町みね子/私たち、大家さん大好き人間です。)で鼎談もしたんですよ。

――春日さんも長年同じアパートにお住まいですもんね。矢部さんも、そのおつもりですか?

矢部 そうですね。できればずっと住み続けたいです!

取材・文=成田全(ナリタタモツ)