美少女×ホラー×ミステリの誘惑とは?『みんな蛍を殺したかった』木爾チレン×『致死量の友だち』田辺青蛙対談

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/30

木爾チレン
木爾チレン氏
田辺青蛙
田辺青蛙氏

 昨年来、二見書房から気鋭の若手作家が書くホラーやミステリ作品が続々刊行されている。2021年6月の発売後、SNSを中心に若い世代からの爆発的な支持を得ている『みんな蛍を殺したかった』の木爾チレン氏は、2009年に「女による女のためのR-18文学賞」で優秀賞を受賞しデビュー。その後、『これは花子による花子の為の花物語』(宝島社)などの恋愛小説や、ゲームのノベライズなどを経て、『みんな蛍を殺したかった』で初めての長編ミステリを書き下ろした。

 そして、2022年2月には、『生き屏風』(角川ホラー文庫)、『大阪怪談』(竹書房怪談文庫)など、主にホラー・怪談を手掛けてきた田辺青蛙氏が『致死量の友だち』でミステリに初挑戦。

 ミステリ出身ではない2人が新境地を切り開いた両作品は、まったく違う作風ながら、共通点がいくつかある。まず、メインとなるキャラクターが10代の少女であること。思春期特有の少女たちの残酷性や、窮屈な世界でじわじわと迫ってくる謎と恐怖。そこで、木爾氏と田辺氏による対談形式で、両作品の魅力について語っていただいた。

(取材・文=本宮丈子)


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美少女だからって、幸せになれるわけではない。

――お二人とも、今回初めて本格ミステリに挑戦されたということですが。

木爾チレンさん(以下、木爾):ミステリ小説はじつはほとんど読んだことがなかったんです。でも、イヤミス系、ホラー系の映画を観るのは昔からめちゃくちゃ好きでしたね。

田辺青蛙さん(以下、田辺):今回、執筆依頼を受けたときに、担当さんから「イヤミスっぽいものを」と言われて、参考のために読み直したのが押切蓮介さんの漫画『ミスミソウ』でした。これは最初に読んだときは、あとにかなり尾を引いて、2、3日ずっと考え込んでしまいましたね。わたしはもともと、漫画『ゾンビ屋れい子』の三家本礼さんが描く復讐もののお話が好きで。じゃあ自分がミステリを書くなら、復讐の物語にしよう! と思って書いたのが今回の『致死量の友だち』(以下、『致死量』)です。

致死量の友だち
致死量の友だち』(田辺青蛙/二見書房)

木爾:『みんな蛍を殺したかった』(以下、『蛍』)は、ミステリ的な構成を仕掛けつつ、「女子同士」の文学みたいなところを軸にしたかったんです。女子間のマウントとか、フレネミー(※)とか、実際にわたしが経験した時代のオタクの悲惨さとか。『蛍』では、そういう自分自身の黒歴史や膿のようなものを爆発させたような感じです。だから、「ミステリを書こう!」というよりは、女子の「怖さ」をメインに書きたいと思いました。
(※)友達のフリをした敵

みんな蛍を殺したかった
みんな蛍を殺したかった』(木爾チレン/二見書房)

――『蛍』では、転校生の美しい少女・蛍の死とともに、スクールカーストで下位に属するいわゆる“オタク”少女たちの苦悩と悲劇が紡がれていきます。『致死量』は、学校で凄惨ないじめにあい家庭にも逃げ場がない主人公が、美しいクラスメイトの夕実に「毒」を使った復讐を持ちかけられ、物語が進んでいきます。どちらも物語の鍵を握っているのが“美少女”ですね。

田辺:なぜ美少女かというと……わたしが純粋に好きだからですね。だから、どうせ書くなら好きなキャラクターがいいな、と。でも、作中のキャラのビジュアルはあえて曖昧にしてある部分があります。

木爾:わかります! わたしも単純に好き。憧れもあるし、あとはやはりキャラクターとして強い。美少女がひとり出てくるだけで物語が映えると思いますし、それは映画作品などでもそうですよね。それはけっこう自分の中でのこだわりかもしれません。

――古今東西、ホラーには美少女がつきもののようになっているところがありますよね。

木爾:わたしは楳図かずおさんや伊藤潤二さんの漫画が大好きなんですけど、やっぱり必ずといっていいほど美少女が出てくるんですよね。人間の怖さを描くにあたって、美少女って必要不可欠な存在なんじゃないかなって勝手に思っています。より怖さ、恐ろしさが際立つような。

田辺:わたし、『蛍』を読んでいてちょっと伊藤潤二さんの『富江』を思い浮かべました。出会った人間を次々と不幸に陥れる超絶美少女、でも、そんな富江自身も絶対に幸せにならないという。

木爾:別に美少女だからって幸せになれるわけではないんですよね。周りからは、美しいというだけで「生きていて楽しいでしょ」って思われがちなんですけど、実際はすごく生きづらさを抱えていたりする。昔、「美少女には感情移入できないから」って言われてボツにされた作品があったんですが、それってすごい偏見やなって思って。そこから対抗意識のように美少女を書いているところがあります。

どんな世代にも共通している思春期の残酷さ

――お互いの作品を読まれて、ご自身のツボにグッとくるところなどはありましたか?

木爾:わたしは美少女の百合ものが好きなので、『致死量』で女子同士が結託しているところがすごく刺さりました。あと、文章が本当に美しくて。最後まで文章に浸りながら、こんな上手く書けたらいいのになって思いながら読んでいました。

田辺:メインキャラクターである蛍ちゃんの黒さがいいなって思いました。蛍は誰もが認める美少女で、クラスの中でも上位のカーストに属せる子なのに、あえて「オタク部」と陰で呼ばれる生物部に入部して、主人公たちに近づいていく。それがひとつの大きな謎になっていて。

木爾:オタクとミステリと美少女をかけ合わせたい! という発想から、じゃあオタクと美少女をどうやって絡ませようかな、もし美少女がオタクを恨むとしたらどんな理由があるのかな? と考えたんです。そこから一個一個のパーツを組み合わせて出来上がっていったという感じです。

田辺:タイトルもすごいですよね。『みんな蛍を殺したかった』っていきなり。

木爾:わたしは京都出身なんですが、家の前に夏になると蛍がよく飛んでいるんです。蛍の美しさと同時に、光っていないときの気持ち悪さも知っているので、それを上手く作品に反映できないかなと思っていました。タイトルに関しては、これまでミステリを書いたことがなかったので、「殺した」ってワードを(題名に)使ってしまっていいのかな、みたいな。けっこうドキドキな、挑戦的なタイトルでした。

――両作品とも高校が物語の舞台となっています。『蛍』はTikTokやSNSなどで話題になって、登場人物たちと同じくらいの若い世代にも反響を呼んでいますが、読者の年齢層を想定していたところはありますか?

木爾:特に現代の女子高生をターゲットに書いたわけではないのですけど、はからずもいろいろな偶然が重なって、今の若い世代にも届いたようなところがありますね。わたしとしては、自分と同じ世代の女性が当時の黒歴史を思い出して「ヒーッ(滝汗)」ってなってくれたらいいなというのはありました(笑)。

田辺:わたしも年齢層のターゲットは想定していないですね。舞台がそもそも、1998年あたりの設定にしているので。でも、今も昔も、思春期の子たちの内面っていつの時代もじつは一緒なんじゃないかなと思います。

木爾:大人になっても鮮やかに残っているのって、思春期の頃の気持ちだったりしますよね。

田辺:『蛍』では、思春期のスクールカーストやルッキズムの残酷性が見事に描かれていて、そういうものとミステリ要素が合わさった、新しいタイプの小説だと読んだときに感じました。本を読む人って、自分も含めて、いわゆる「陰キャ」にカテゴライズされることが多い。そういう人にリアルに響く小説ってじつはあんまりなかった気がしていて。わたしもこの作品を若い頃に読みたかったですね。友達とわいわいするより、本の世界にひとりで浸る方が落ち着けたので。

木爾:自分自身、外見コンプレックスが半端なかったんです。ルッキズムを大々的に取り上げることに関してはなかなか難しい面もあるんですが。

田辺:でも実際に学校って、そういう面あるじゃないですか。先生とか、露骨にきれいな子やスポーツマンタイプの子をひいきしていました……。そういう残酷さが小さな学校という閉鎖社会で形成されていて、息苦しかったです。

木爾:若い頃ほど、外見至上主義的なところは強くありますよね。

田辺:『蛍』は、年代は違えど、現実と地続きの話だなとすごく感じたんですよね。描かれているものに近いカーストやグループがクラスの中にあったかも、って思えるところにすごくリアリティがあって。そこが多くの読者のかたに共感を呼んだのだと思います。

新作はお互い「デスゲーム」ものを書きたい!?

――お互いの作品で、怖かったところはありますか?

田辺:物語が終わったあとの登場人物たちの行く先がすごく怖いなって。書かれていない部分も、想像すると暗澹たる気持ちになるというか。そういう怖さの余韻が、読み終わったあとにかなりずしんと来ましたね。読んでいる間は、この先にストーリーがどうなっていくんだろう、って夢中でどんどん読み進んでいくんですけど、本を閉じたあとにそれぞれの人物のその後を何日も考えちゃうくらい。

木爾:『蛍』も言ってみれば復讐の物語なんですが、『致死量』は、それよりもっともっと激しい復讐の話やなって思いました。ラストも衝撃的だし、リアリティというよりも、ジェットコースターに乗っている感じ。どういう思考回路で書いたんだろう? みたいな。

田辺:いや……あの、何も考えずに書き始めて、後半になって「あ、犯人決めなきゃ」って(笑)。今回、ホラー・ミステリということで、バカミス(※)というジャンルが世の中には存在するから、最後はエスパーとか宇宙人が出てくるのでもいいかな、と途中まで考えていたんですけど、ちょっとそれはさすがにアカンのでは? とハッとして。というか、『蛍』を読んで、影響を受けたところもあります。

(※)バカミス=ありえないおバカ展開になるミステリ

木爾:ええー(笑)! そうなんですか。あと、タイトルにある「致死量」っていう言葉がいいですよね。毒と百合ものっていうテーマがわたしは今まであまり見たことがなかったかも。

田辺:実際にあった毒物事件のルポをよく読んだりしているんですが、いまだに解決していないものが多いんです。人間関係の濃い身近なところで起こっていて、毒を実際に入れているところを見ていないから誰が犯人なのかわからないという。そういった現在進行形の重要な未解決事件が複数あるので、再度そのあたりのルポを読み直しました。

――お二人とも、ミステリという新たな境地を切り開いたわけですが、今後の展開は?

田辺:『致死量』は、今まで挑戦したことがなかった感じで楽しかったので、ぜひできれば続編を書きたいなと思っています。じつは、あのラストの後に、デスゲームが始まるっていう展開を書きたかったんです。デスゲームものがすごく好きなんで。

木爾:わたしもじつはデスゲームものが好きで、書きたいなと思っていたところなんです。やっぱりちょっとどこか好きなものがきっと似てるんですね。あとはこれからも、リアルな女の子の黒い部分や乙女な部分を全部合わせた作品が書けたらいいなと思います。

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