話題の絵本『鬼ナス』 見た目はホラー! でも泣ける…! そのわけは「親の覚悟」と「親の愛情」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『小学生のボクは、鬼のようなお母さんにナスビを売らされました。』(原田 剛:著、筒井則行:イラスト/ワイヤーオレンジ)

小学生のボクは、鬼のようなお母さんにナスビを売らされました。』という強烈なタイトルに、子ども向けとは言い難いホラータッチのイラストが目を引く絵本。かねてより「見た目がホラーなのに泣ける」とお母さんたちの間で話題となっていた本書が、テレビで紹介されて大反響を呼びました。

この作品は著者が子どものときに体験した実話で、この絵本のストーリーはタイトルにもあるとおり、小学生のボクが鬼のようなお母さんにナスビを売りに行かされた物語です。子どもの時にお母さんに怖い顔で怒られた人もいると思いますが、なかなかナスビを売りに行かされた人はいないでしょう。なぜ、優しかったお母さんが鬼のような顔になって、小学生のボクにナスビを売らせたのか? その態度の謎は、絵本のラストで明かされるのですが……その謎について語る前に、もう少し詳しく『鬼ナス』のストーリーを紹介したいと思います。(タイトルが長いため、以下は『鬼ナス』と表記します)

主人公であるボクの家は、ナスビ農家。食卓にはいつもナスビ料理ばかり、焼いたナスビ、煮たナスビ、揚げたナスビ……と、小学生のボクはナスビを見るのもイヤで、とうとう“ナスビの鬼”に追いかけられる夢まで見るほどでした。そんなボクが10歳くらいのときに、ボクのお母さんが「鬼」へと変貌します。お母さんは突然ボクに「これをひとりでひとふくろ100円で売ってきなさい!」と鬼のような顔をして市場で売れないナスビを近くの団地に売りに行かせたのです。ボクはナスビを売りに行くのですが、誰も買ってくれません。そんなボクに、明日は売ってくるようにとお母さんは鬼のような顔で怒ります。どうして、お母さんはここまでボクにナスビを売りに行かせるのか? その理由を、ボクはお母さんが亡くなったあとに知ることになります。

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『鬼ナス』のラストは、お母さんが鬼のようになったのは、ボクに生きる方法を教えるためだったと、ボクが知ったシーンで終わります。ナスビ売りという鬼のような母の厳しさの根底にあった、母の深い愛情と胸を引き裂かれるような思い。子のために心を鬼にしたお母さんと、母親がいなくなってからお母さんの気持ちを知ったボク、そんな二人の姿に自然とこみあげるものがあります。

『鬼ナス』を読んで気づかされる、「親の覚悟」と「親の愛情」。子を持つ親なら、子どもには幸せになってほしいと思います。が、そのためには甘やかすだけではなく、親がいなくとも生きていける力と方法を身につけさせるための厳しさも子どもには必要じゃないかとこの絵本『鬼ナス』は訴えかけてきます。

ちなみに、本書の中でボクの夢に出てくる“ナスビの鬼”ですが、見た目が本当にホラーです。我が家の4歳の息子は、泣きはしませんでしたが“ナスビの鬼”を見て「これイヤ!」と言って逃げだしました。小さなお子様には“ナスビの鬼”のイラストで泣いてしまう子もいるかもしれません。怖いイラストと愛のあるストーリー、その組み合わせの意外性が『鬼ナス』の魅力であり、泣ける理由といえるでしょう。子どもたちはもちろん、親となった大人たちにも読んでほしい一冊です。

文=ナツメ