文字が語る「真実」を毒舌美形の筆跡鑑定人が解き明かす! 大人気「筆跡」ミステリーの最新刊がいよいよ登場! 東雲がどんどん愛おしくなってつらい……。

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。』(谷春慶/宝島社)

「わ、なんてイケメン」と表紙に惹かれて手に取った読者も多いはず。『筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。』(谷春慶/宝島社)は、筆跡鑑定をはじめ、文字の書き手の「感情」まで読み取れるという異才・東雲清一郎(しののめ・せいいちろう)が、「文字」と「書」から人の想いをひもとく「筆跡ミステリー」だ。

鎌倉の大学に通う女子大生・近藤美咲(こんどう・みさき)は、悩んでいた。進学を機に上京し、祖父母の家で楽しく日々を送っていた美咲だが、昨年、祖父の和彦(かずひこ)が急逝し、現在は祖母の久代(ひさよ)と2人暮らし。哀しみを抱えながらも、和彦のいない生活に慣れてきた矢先、とんでもない遺品を発見してしまう。

それは、和彦が祖母ではない、「順子」なる女性へ書いたラブレターだった。亡き夫に好きな相手がいたなんて。そのラブレターを大切に保管していたなんて…。祖父母が理想の夫婦であり、久代を元気づけたい美咲は、とある情報を頼りに筆跡鑑定ができるという同学年の東雲清一郎に助けを求めた。美咲はこのラブレターを、和彦が書いたものではないと信じていたし、それを証明したかったのだ。だが、

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「二度と俺に近づくな、バカ女」

清一郎は冷たく美咲を突き放す。東雲清一郎。彼は大学内でも「アンタッチャブル」な存在。眉目秀麗で誰もが目を見張る美形だが、ものすごい毒舌で人嫌いの「変わり者」。さらに書道部に所属している「書の達人」でありながら、「書を書かない」謎多き美青年。

どうしても祖父のラブレターを否定したい美咲は、清一郎の「お酒好き」を利用して、なんとか協力にまでこぎつける。しかし清一郎は「順子」宛の手紙を、和彦の直筆だという鑑定結果を出した。落ち込む美咲だったが、東雲は思いがけない「真実」を解き明かす。
「順子」宛に書かれたラブレター。その「書」に秘められた「想い」は、和彦の、「久代」に対する深い愛情だった――。

本作は「筆跡」や「書道」、「文字」への興味が深まる雑学ネタいっぱいの内容となっている。だが何と言っても、本作の魅力はキャラクターだろう。とにかく口が悪いし素直じゃない清一郎。「君はおせっかいなのか、バカなのか、物好きなのか……判断に困るな」「人類全体が猫以下だ。肉球程度の価値もない」など、『東雲清一郎語録』が作れるんじゃないかと思えるほどの毒舌名言の数々を繰り出す。

一方で、清一郎は極度の方向オンチだったり、動物大好きだったりと、普段の冷静クールなイメージとは真逆な人間性も持っている。律儀なところもあり、精神的に「脆い」部分なんかもある。

正直、たくさんの本を読んでいると「毒舌美形キャラはもうお腹いっぱいだよ!」と思うことも多々あるのだが、本作は読めば読むほど東雲清一郎にハマっていった。安易に「実は優しい」キャラじゃないのがよかったのかも。清一郎は割とずっと「ひどい男」だ。だが美咲が本当に困っている時は彼女を見捨てないし、思いがけない行動力を見せる。その「頼もしさ」にキュンときた。

そして、なぜ書を書かないのか。なぜ他人を寄せ付けないのか。その原因となった「過去」と現在の「ひねくれた性格」が結びついているところも、清一郎に惹かれる一因だろう。

1巻では伏線を残して結末となるのだが、その謎が少しづつ明らかになり、清一郎の「弱い部分」が描かれる2巻では、「もうなんか東雲くんが愛おしくてつらい……」という気持ちにさえなる(私だけではないはず……)。

ヒロインの美咲も、ただの「凡庸いい子ちゃん」ではなく、一見平凡な女子大生だけれど、嫌味がなく芯のあるところが好感を持てる。書道部の部長である松岡(男)のクズ……もとい最低っぷりもいっそ清々しくて笑える。脇役もいい味出しているのだ。

さて、待望の3巻『筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 鎌倉の花は、秘密を抱く。』が6月6日に発売予定だ。マジで発売日に書店で買おうと思っている。だって、清一郎と美咲ちゃんの未来がとても気になる終わり方なんだもの……。

文=雨野裾