東野圭吾の出世作! 見た目は娘、中身は妻!?「秘密」を抱えた夫婦の切なすぎる“すれ違い”ストーリー

小説・エッセイ

2017/10/9

『秘密』(東野圭吾/文藝春秋)

 男女のすれ違いを描いたラブストーリーは数え切れないほどあるが、こんなにも切ないすれ違いの物語は他にあるのだろうか。『秘密』(文藝春秋)は、広末涼子主演で映画化、志田未来主演で連続ドラマ化もされた傑作不可思議ミステリー。今はミステリー界の巨匠となった東野圭吾氏の出世作でもある。亡くなったはずの妻。生き残った娘に宿った妻の魂。かつては恋に落ち、同じ世界を生きていた妻は娘として新しい時を過ごし、夫との距離を感じていく。

 主人公は、自動車部品メーカーで働く杉田平介。妻・直子と、小学5年生の娘・藻奈美と、平凡だが、幸せな毎日を過ごしていた。しかし、ある日、長野への帰省のために直子と藻奈美が乗車したバスが崖から転落する事故を引き起こす。2人は病院に運ばれたものの、やがて妻は命を落としてしまった。一方で、娘は奇跡に意識を回復。だが、その幼い体に宿っていたのは、死んだはずの妻・直子の魂だった。平介が失ったのは、妻というべきなのか、子どもというべきなのか。不思議な秘密を抱えた暮らしは、苦悩の連続だ。

 見た目は娘、中身は妻。直美は、小学生の娘の姿になっても、今まで通り家事をこなし、それに加えて、学校にも通う。「娘には、今までの自分ができなかった新しい人生を送ってほしい」と強く思う直美。娘として直美は私立中学を受験し、その後は医学部を目指して共学の高校を受験、合格する。

 夫婦であったはずの2人が、親子になった時の苦悩は計り知れない。たとえば、娘の体に妻の中身が入り込むという不可解な出来事に適応し、新しい人生を始めようとする妻の気持ちが平介は次第にわからなくなる。年頃の少女に成長した妻が共学に行くことを望んだのは、少年たちとの青春を送りたいからではないのか。平介は、どんなに心が揺れることがあろうと、浮気も再婚も考えていないというのに、妻の周囲には男の影がちらつき始める。最愛の人のいる世界が自分の世界から少しずつ離れていくことの危機感。嫉妬。疎外感。抑えることのできない妻への独占欲。平介は妻であって娘でもある彼女への関係に悩み苦しむ。

 しかし、平介と直子の生活は永遠に続くわけではない。いつしか終わりの時はくる。その時が近づいた時、直子が下した決断とは。2人はどんな形でさよならを交わすのだろうか。

 夫婦とは。愛とは。父とは。妻とは。クライマックスの衝撃は凄まじい。読み終えた後、しばらく呆然としてしまったのは私だけではないはずだ。これは、確かな愛があるからこその結末だ。その果敢な決断を、揺るぎない思いを、ぜひともあなたも見届けてほしい。

 非情な運命は、愛する人を二度奪っていく。夫婦の葛藤、その痛みは、誰の心にも鋭く突き刺さることだろう。『秘密』というタイトルの本当の意味がわかった時、あなたはきっと涙が止まらない。

文=アサトーミナミ

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