東野圭吾の小説からおすすめを厳選・9作品

文芸・カルチャー

更新日:2018/5/22

 ドラマ化、映画化など豪華競演陣による映像化でもたびたび話題となってきた作家・東野圭吾。その小説作品は、社会派ミステリーから空想科学、またコミカルなものまで幅広く、実に多彩。読み出したらページをめくる手が止まらなくなるようなストーリーの持つ引力と、東野の繊細で愛情のこもった筆致で描かれる魅力的な登場人物のキャラクターには、国内外に多くのファンがいる。ここでは、ベストセラー作家・東野圭吾作品から厳選して9作品のレビューを紹介。

東野圭吾(ひがしの・けいご)
1958年大阪府生まれ。1985年『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。1999年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞を受賞、2006年にはガリレオシリーズ初の長編『容疑者Xの献身』で第134回直木賞・第6回本格ミステリ大賞を受賞した。

東野圭吾作品史上「最も泣ける」!どんな相談にも真摯に答える「雑貨店」の奇蹟『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(東野圭吾/角川文庫)

 力強く生きようとすればするほど、人は悩みを抱える。時に人は自らの歩を阻むものを一人では取り除けない。進むべき道を示す地図は、きっと自分の中にしかない。だが、誰かに背中を押してほしい。行く道を明るく照らしてほしい。そう思うのは当然のことだろう。

 東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川文庫)は、どんな悩み相談にも真剣に答えてくれる雑貨店をめぐる感動ミステリー。東野作品の中でも「最も泣ける」と評判の本作は、2017年9月に山田涼介と西田敏行の共演で映画化された。

advertisement

 舞台は廃業した「ナミヤ雑貨店」。その廃屋に、悪事を働いた3人の男が逃げ込んでくる。誰もいない店に、郵便口から落ちてきた悩み相談の手紙。3人は戸惑いながらも返事を書くが…。謎が明らかになる時、驚きのラストが待ち受ける。

 かつて雑貨店は、どんな相談にも真剣に答える店主・浪矢雄治が切り盛りしていた。子どもたちの悩み相談に答えていたものが、生真面目さが評判を呼び、切実な相談まで届くようになる。

 そんな手紙が、時空を超えて現代に届く。3人は逃亡中でありながら、相談に乗りたくなってしまう。余命短い恋人につきそうか、オリンピックを目指すか迷うスポーツ選手。水商売を始めようと計画する若いOL…。今まで頼られることがなかった男たちは、相談に乗ることが楽しくなっていく。

「これも人助けだ。面倒臭いからこそ、やり甲斐がある」

 悩める相談者を救うはずの手紙は、いつしか回答者の人生を変えていく。相談者と回答者の人生が照らされていくさまに、読者は心揺さぶられる。本作が、悩みばかりの日常を送る私たちの癒しとなるに違いない。

東野圭吾の出世作! 見た目は娘、中身は妻!? 「秘密」を抱えた夫婦の切なすぎる“すれ違い”ストーリー

『秘密』(東野圭吾/文藝春秋)

 男女のすれ違いを描いたラブストーリーは数え切れないほどあるが、こんなにも切ない物語は他にあるだろうか。『秘密』(文藝春秋)は、広末涼子主演で映画化、志田未来主演で連続ドラマ化もされた傑作不可思議ミステリー。東野圭吾の出世作だ。

 主人公は、部品メーカーで働く杉田平介。妻・直子と娘・藻奈美と、平凡だが幸せな毎日を過ごしていた。しかし、ある日、直子と藻奈美が乗車したバスが転落事故に遭い、妻は命を落としてしまう。一方、娘は奇跡的に意識を回復するが、その体に宿っていたのは死んだはずの妻の魂だった。平介が失ったのは、妻なのか娘なのか。

 直美は娘の姿になっても家事をこなし、加えて学校にも通い、医学部を目指して共学の高校を受験、合格する。夫婦であったはずの2人が、親子になった時の迷いや苦悩は計り知れない。最愛の人が自分の世界から少しずつ離れていくことによる疎外感や独占欲。平介は彼女との関係に悩み苦しむ。

 しかし、平介と直子の生活にもいつしか終わりの時はくる。直子が下した決断とは…。

 夫婦とは。愛とは。クライマックスの衝撃は凄まじい。その果敢な決断を、ぜひあなたも見届けてほしい。『秘密』というタイトルの意味がわかった時、きっと涙が止まらないはずだ。

東野圭吾『危険なビーナス』 弟が失踪?そう告げてきた“弟の妻”に、兄は恋をして…。

『危険なビーナス』(東野圭吾/講談社)

 主人公・手嶋伯朗のもとに、楓と名乗る女性から電話があった。彼女は、伯朗が長年没交渉だった弟の妻であると名乗り、その夫の失踪を告げる。原因を探るべく、資産家である夫の実家・矢神家に近づく協力を頼みたいという。伯朗にとって矢神家は母の再婚先でしかなく、母亡き今では縁を切っていたのだが…。

『危険なビーナス』(東野圭吾/講談社)は、曲者揃いの資産家一族に一般女性が子連れで嫁ぐなど、舞台を見るときわめて大時代的な設定だ。それを違和感なく読ませるのが東野のストーリーテリングの上手さ。面倒な一族とは距離を置いていた〈半部外者〉である主人公の視点が読者とマッチし、物語へすんなりと入っていく。

 さらに、危なかしいほどに明るい楓が、物語全体を引っ掻き回していく様子が小気味いい。彼女が何を考えているのか、これも全体を貫く大きな興味のひとつになっている。

 発端は弟の失踪だが、次々と他の謎が現れ、読者を翻弄する。どこに連れて行かれるのかわからない興味と、結末に訪れる快感。〈弟の妻〉に恋してしまった主人公の胸中。読みどころは多いが、手に汗握るクライマックスから、驚きの真相までは一気呵成だ。

 サスペンス、サプライズ、カタルシス、そしてロマンスをまぶした本作は、実に贅沢な一冊だ。

■愛した不倫相手が、時効間近の殺人事件の容疑者だったら……深田恭子主演映画が話題に――東野圭吾が描く不倫小説『夜明けの街で』

『夜明けの街で』(東野圭吾/KADOKAWA)

 芸能人の不倫報道を見聞きするにつれて多くの人が感じていることは、「なんて馬鹿なのだろう」ということ。最初は日常からの逃避に過ぎず、男としての自信を取り戻す遊びだったに違いない。向かう先は地獄。しかし、その甘美な世界へと引きずりこまれる人間は後を絶たない。

 そうした男の気持ちを切々と描き出した東野圭吾の小説『夜明けの街で』(KADOKAWA)。不倫を扱った小説は数あれど、気持ちの変化をこんなにもリアルに描き出した小説はなかなかない。だが、その不倫相手は訳ありの女。時効間近の殺人事件の容疑者なのだ。

 舞台は横浜。建設会社に勤める渡部は、家族と平凡で幸せな生活を送ってきた。だが、彼は、派遣社員の仲西秋葉との不倫関係に陥ってしまう。秋葉に惹かれ、再婚を考え始めるが、彼女には複雑な過去があった。15年前、父親の愛人が殺されその容疑者とされているのだ。時効まであとわずか。警察や被害者家族は秋葉の周りをかぎまわっているが…。彼女は本当に殺人を犯したのか。もし、犯人ならば、渡部は秋葉を愛し続けることなどできるのか。

 不倫は甘い地獄。男のおろかさと女の恐ろしさが詰まった物語は、驚きのラストまで目が離せない。不倫が何かと話題になる世の中だからこそ、手にとりたい一冊。

■木村拓哉&長澤まさみ初共演映画『マスカレード・ホテル』!「刑事」と「ホテルウーマン」の名コンビが事件解決に挑むお仕事潜入ミステリー

『マスカレード・ホテル』(東野圭吾/集英社)

「プロフェッショナル」である人間は、美しい。ホテルのフロントクラークとして最高のおもてなしを提供するプロと、刑事として犯人を徹底的に追い詰め捕まえるプロ。異なる分野のプロフェッショナル同士の心の交流を描いた東野圭吾の「マスカレード」シリーズは、仕事をするすべての人に読んでほしいミステリーシリーズだ。仕事に誠心誠意を尽くす男女をカッコ良く描き出したシリーズは、累計265万部突破。第一弾の『マスカレード・ホテル』は、2019年に木村拓哉と長澤まさみ初共演で映画化される。

 物語の中心は、都内で起きた連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明だが、現場に残された暗号から、次の犯行場所はある一流ホテルになることが発覚する。次の事件を未然に防ぎ、犯人を逮捕するため、捜査一課の刑事・新田浩介はフロントスタッフに扮する。そして、優秀なフロントクラーク・山岸尚美がその教育兼補佐役となるのだった。

「マスカレード」とは仮装や仮面舞踏会を意味する言葉。刑事の仕事はホテルに現れる犯人の仮面をひっ剥がすこと。しかし、客を第一に思うホテルマンの仕事はそれと正反対だ。 頭の切れる刑事と敏腕ホテルウーマンのコンビが駆け抜ける爽快感たっぷりのミステリーシリーズは、今後ますます話題を呼びそうだ。プロとしての仕事を真摯にこなす彼らの姿に、仕事に悩みを抱える人々もなんだか勇気づけられる気がする。

東野圭吾が過去作を“ぶっ壊す”新境地。桜井翔・広瀬すず・福士蒼汰ら豪華競演の映画化作品はいよいよGW公開!

『ラプラスの魔女』(東野圭吾/KADOKAWA)

「これまでの私の小説をぶっ壊してみたかった。」

 当代一の人気作家、東野圭吾のそんな言葉を聞けば、ファンならずとも興味を引かれずにはいられない。『ラプラスの魔女』は作家デビュー30周年の節目に東野が挑んだ空想科学ミステリーだ。

 物語は竜巻に襲われた母娘の悲劇から幕を開ける。その数年後、元警察官の武尾は、少女のボディーガード役を引き受けることになる。未来を予知するかのように振る舞う不思議な少女の正体は? 彼女が追跡する青年とは? 謎多き事件の調査に当たる大学教授が見るものは? さまざまな謎が重なり、登場人物は竜巻のように巨大な渦に巻き込まれていく……。渦の中心に立つのは「ラプラスの魔女」であるところの少女・円華(まどか)だ。聖と俗を併せ持ちながらもすべてを超越する力を持つ円華は、これまでの東野作品にはないタイプの新ヒロインだろう。

 東野が描くのは圧倒的なリアリティに基づく“近未来の予想図”だ。謎に翻弄され、真相に近づくほどにページをめくる手が加速する。そんなミステリーの快楽をたっぷりと堪能したい方におすすめの一冊だ。

■20年間にわたって映像化不可能といわれた東野圭吾の『天空の蜂』。その舞台となったのは?

『天空の蜂』(東野圭吾/講談社)

 映画化、ドラマ化が相次いでいる東野圭吾の作品。その一方で、「映像化不可能」と呼ばれていた作品が、『天空の蜂』(東野圭吾/講談社)だ。

 物語は、自動操縦の特殊ヘリコプターがテロリストに奪われることから始まる。爆弾を積んだヘリコプターが旋回する真下には、稼働中の高速増殖炉が。国民全員を人質にするテロリストと、それを阻止するべく動く政府の駆け引きに、思わず手に汗握る作品である。魅力ある人物たちの繰り広げる群像劇が魅力でもあるが、その圧倒的なスケールとテーマ性から映像化はほぼ不可能といわれてきた。東野が相当な取材を重ねたと思われる原子力発電所のディテールは、3.11後となった現在においては多くの人にとって他人事ではない、大きなリアリティがあるはず。東日本大震災以降、原発問題が真剣に議論されるいまでこそ、改めて手に取りたい一冊だ。小説の発表から20年の時を経た2015年には、江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛ら豪華競演でもって映画化され、大きな話題を呼んた。

東野圭吾の超大作『白夜行』! 被害者の息子と、容疑者の娘の見えない絆のダークストーリー

『白夜行』(東野圭吾/集英社)

 東野圭吾氏の『白夜行』(集英社)は読む人によって様々な解釈ができる衝撃ミステリー。綾瀬はるか&山田孝之でドラマ化されたことでも知られるが、心に闇を抱えた男女の姿をおどろおどろしく描いたこの小説はミステリーファン必読の書といえるだろう。文庫本で864ページにも及ぶ超大作だ。

 物語の中心に横たわるのは、1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された殺人事件。疑わしい容疑者は複数挙がったが、決定打はなく、結局事件は迷宮入り。事件当時、小学生だった、被害者の息子・桐原亮司と、容疑者の娘・西本雪穂はそれぞれ全く別の道を進んでいく。理知的な美貌を持つ雪穂は華々しい道、暗い眼をした亮司は暗い道…。しかし、2人の周囲には世にも恐ろしい事件が頻発していた。事件の真相を追ううちに見えてくる2人の関係。そして、19年の時が経ったとき、2人にはどんな未来が待ち受けているのだろうか――。

 ひとときも目が離せないダークな絆の物語。こんなハラハラさせられるノンストップミステリーを読まない手はない。

■福山雅治主演、ガリレオシリーズの金字塔『容疑者Xの献身』! 完全犯罪とその裏に隠された愛の物語

『容疑者Xの献身』(東野圭吾/文藝春秋)

 福山雅治主演で、ドラマとして、映画として、大人気を集めた「ガリレオ」シリーズ。捜査一課から慕われ、「ガリレオ先生」と呼ばれるほど、天才的な頭脳を持つ物理学者・湯川学の、クール、かつ、鮮やかに事件を解決していく姿は、映像作品のみならず、東野圭吾氏の原作小説のシリーズの中でも人気が高い

 いつも冷静沈着に事件を解決していく「ガリレオ」湯川学。そんな彼が唯一冷静ではいられなかった事件をご存じだろうか。『容疑者Xの献身』は、ガリレオシリーズ第3弾。直木賞受賞作であり、映画化でも大きな話題となったこの作品で描かれるのは、湯川の大学時代の親友であり、ライバルである天才数学者が引き起こした完全犯罪だ。天才 vs. 天才の戦い。徐々に友人への疑いを深めていく湯川の葛藤。事件の裏にあったのは、あまりにも純粋な愛の姿だった。

 天才的な数学者でありながら、高校教師に甘んじていた石神哲哉。不遇な毎日を送っていた彼の心の支えとなっていたのは、アパートの隣に娘とともに越してきたシングルマザーの花岡靖子への思いだった。ある日、靖子は、アパートを訪ねてきた元夫・富樫慎二を娘とともに衝動的に殺してしまう。困り果てる母娘。そんな彼女たちに石神は救いの手を差し伸べるのだが――。

 愛とは何か。湯川が天才と認めた男が企てた完全犯罪と、その裏に隠されたあまりにも切ない愛の物語に、あなたは必ず胸打たれるに違いない。

■ほかにもまだまだある魅力的な小説が多い東野圭吾作品! 東野作品をはじめて読むならこの本ランキング開催。並居る人気作の中で1位となったのは……?

 テレビドラマ化、映画化が続き、ミステリー好きだけでなく多くのファンを抱える小説家、東野圭吾。でも「実はまだ東野作品を読んだことがなくて……」なんて人もいるのでは?

 今回は、雑誌『ダ・ヴィンチ』などでも東野圭吾記事を書かせれば右に出るものはいない、といわれる大矢博子さんに、初心者におすすめの作品ベスト5を紹介してもらった!