迷宮事件を追え! いまだ犯人が逮捕されていない平成の殺人事件をプロファイリング

社会

公開日:2017/12/31

『迷宮探訪 時効なき未解決事件のプロファイリング』(双葉社)

 警察庁「犯罪統計資料」によると、2007年から2016年の10年間で認知された殺人事件のうち、98パーセントは犯人が検挙されているという。しかし、逆をいえば「2パーセントの殺人」は犯人が見つからないまま今も捜査は継続されているのだ。2010年の法改正で、1995年以降の凶悪事件については時効が撤廃された。「未解決事件」解決について警察が背負った責任はますます大きくなっている。

『迷宮探訪 時効なき未解決事件のプロファイリング』(双葉社)は週刊大衆編集部が元刑事・北芝健氏の協力のもとに未解決の殺人事件を再検証していくドキュメントである。本書の取材対象になったのはいずれも時効が撤廃された事件ばかりだ。事件現場の探訪とプロファイリングから見えてくる事実は、決して事件を風化させまいとする編集部の執念を感じさせる。

 本書に登場する未解決殺人事件は、いずれも世間に大きな衝撃を与えた陰惨な内容だ。たとえば、2000年の大晦日に起こった「世田谷一家殺人事件」の現場はあまりにもいたましい。両親と2人の子供が惨殺され、長女と母親にいたっては絶命後に体を切り刻まれていた。とても人間の所業と思えない残忍さがにじみ出ており、北芝氏もまさにその点をプロファイリングの足がかりにする。

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どんなに恨みを持っていたとしても、一般人にここまでの犯行はできるわけがない

 冷静ささえうかがえる犯行手口と、現場に残された足跡を根拠に北芝氏は「犯人は軍事訓練を受けた人物」である可能性を指摘する。しかも、現場に残された犯人のものと思わしきDNAは外国人の特徴が示されていた。しかし、「外交の壁」が捜査に立ちふさがり、事件は暗礁に乗り上げた。一家がアジア系の宗教団体と関わりを持っていたとの情報も明らかになったのだが―。

 2004年10月5日、広島県廿日市市(はつかいちし)で起こった女子高生が自宅で刺殺された事件は、被害者家族から犯人の目撃証言も得られている。しかし、10年以上経っても犯人逮捕にはいたっていない。被害者は人から恨みを買うようなタイプではなく、交友関係もいたって平和だった。北芝氏は「面識のない怨恨」だとすれば、犯人特定が難しいと語る。きっかけは、ナンパを無視された程度の怨恨だったかもしれない。しかし、限度を知らない不良グループは、勝手に恨みをエスカレートさせて復讐に及ぶことがあるという。まったく無関係の人間に理不尽な怨恨で殺されたのだとすれば、これほど腹立たしい話はない。

 廿日市市の事件では現場の状況から「動機は怨恨」と判断した警察が、被害者の知人を中心に捜査を開始した。「怨恨による殺人は顔見知りが犯人」という初動捜査の思い込みが事件解決を遠ざけてしまったのである。本件に限らず、未解決事件に多く見られる特徴が初動捜査での過ちだ。面子を大事にする警察は一度決めた捜査方針を簡単には覆さない。その結果、犯人たちは逃亡を完遂して野放しになってしまう。

 犯人こそ判明したものの、警察の失態が悲劇を招いた事例として1999年の桶川ストーカー殺人事件も紹介されている。女子大生・Sさんが元交際相手の男に度重なる嫌がらせを受けたあげく、刺殺された事件だ。警察はストーカーの相談に来たSさんに対し「これは事件にならないよ」などの暴言を吐き、まともに対応しなかった。それどころか、Sさんが提出した告訴状を改ざんし、事件そのものを揉み消そうとしていたのだ。

 本書巻末の対談で北芝氏とジャーナリスト・寺澤有氏は「警察の暗部」が未解決事件を招く危険について警鐘を鳴らす。2人が言うように、無抵抗な市民ばかり狙う点数稼ぎの職務質問が防犯として機能しているかは大いに疑問だ。柔軟性のない捜査や、手間を嫌う現場の怠慢が未解決事件へとつながるなら、警察の体質改善は必須だろう。

文=石塚就一