女からも男からもモテモテ!? なぜ西郷隆盛は「人たらし」と言われたのか——大河ドラマ原作「西郷どん!」を読む!

文芸・カルチャー

更新日:2018/1/29

『西郷どん!(上・中・下)』(林真理子/KADOKAWA)

 柴咲コウさんの大ファンである私にとって「おんな城主 直虎」の放送終了は大変苦痛で仕方がない。しかし2018年の大河「西郷どん」が楽しみであるのもまた事実。九州で生まれ育った私にとっては勿論のこと、多くの日本人にとって西郷隆盛はかなり馴染みの深い幕末期の人物ではなかろうか。それに加え、彼ほど有名で、それでいて多くの謎に包まれた人物もまた珍しい。「教科書にも載っている“あの”肖像は、実は合成である」という話はあまりにも有名だ。多くの物語の題材となりながら、未だに実像が掴めない西郷隆盛。今回の大河で彼は、果たしてどのように描かれるのだろうか。期待の膨らむ大河ドラマの原作となる小説『西郷どん!(上・中・下)』(林真理子/KADOKAWA)をご紹介したい。

■新しい西郷隆盛像

 原作者の林真理子氏は、以前に最後の将軍徳川慶喜とその妻美賀子を書いた時に、幕末の複雑さにつくづく苦労したという。しかしそれゆえに歴史の主役たちにすっかり魅了されたそうだ。特にその中でも一番難解でおもしろいのが“西郷どん”だと述べている。そんな著者が歴史上の偉人・西郷隆盛をめぐる女性たちや彼の流された島での生活を深く掘り下げ、そして下級武士の家で生まれ育った少年時代もしっかりと描くことにより、新しい西郷どんの人物像を浮かび上がらせる。その西郷どんは、大きな愛で人々を包み込み、人々から深く愛される魅力的な人物であった。

■物語で描かれる深い愛

 3度の結婚と2度の島流しを経験する西郷隆盛の人生。肖像もはっきりとせず、多くの謎に包まれた彼だが、ひとつだけ確かなことがある。それは、彼が大きな愛を持って人々と接し、人々から大いに愛されていたということである。薩摩の人々は親しみを込めて、彼を“西郷どん(せごどん)”と呼んだのだ。

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 米を一度も食べたことがない子ども、愛馬を売らなければならず深夜にすすり泣く百姓。そんな薩摩の人々を目の当たりにした吉之助(若い頃の隆盛)は、憧れの人物であり薩摩藩主の島津斉彬に対して意見書を送り続ける。そんな彼の愚直で情熱的な行為は、まるで恋文のようだとも表現されている。

 どうして西郷隆盛という人物は老若男女問わず民衆から愛されたのか。その答えは上巻の幼少期のストーリーを読めば分かる気がする。貧乏な下級武士の家庭で育つ小吉(幼少期の隆盛)は妹に対し、「おいが銭持ちになったら綺麗なべべを買ってやる」と語った。しかしそれを聞いていた母親は、「銭持ちになったらなど、さむらいの子が口にすることか」と厳しく叱りつける。貧しい中でも“武士”として崇高な精神を持ち続けるように育てられた彼は、全ての人々を魅了するような立派な武士に成長していく。

 私は過去に何度か鹿児島市を訪れたことがある。天文館(市中心部の繁華街)をふらふらと歩いてみると、至る所に“西郷どん”の像やイラストが見られ、今もなお彼が地元の英雄として鹿児島の人々から大いに愛されていることが伺い知れた。

 この世の中には多くの“愛”のかたちが存在し、それは家族愛であったり、性愛であったり、愛はそのかたちを変えて人生のさまざまな場面に登場する。複雑な事情を抱えながらも“武士”の身分として勉学に勤しみ、国を背負うまでになる西郷どん。そんな彼が人々に向ける深い愛がこの物語では描かれている。

 林真理子氏の原作と中園ミホ氏の脚本のタッグが組まれる大河「西郷どん」。ドラマの中での“愛”の描かれ方にも注目だ。そして、本書もぜひ併せて楽しみたい。

文=K(稲)