突然の母の死。憔悴気味の父を救ったのは意外にも…?  ささやかで愛おしい『我が家のヒミツ』

文芸・カルチャー

2018/7/3

『我が家のヒミツ』(奥田英朗/集英社)

 外国には、「食器棚のガイコツ」ということわざがあるらしい。意味は「公然にできないような家庭内のヒミツ」。実際にそんな大それたヒミツがある家庭は一握りだろうが、あなたの家にも家族の間だけのちょっとしたヒミツがあるのではないか。そして、そのヒミツがあなたの家族を結びつける絆になっているにちがいない。

 奥田英朗氏の『我が家のヒミツ』(集英社)は、どこにでもいる普通の家族のヒミツを描き出した短編集。『家日和』『我が家の問題』に続く人気シリーズの3作目だが、短編集だから、どこからでもいつでも気軽に読める。そして描かれているのが、いたって平凡な家族というのがいい。奥田氏は、今どきの家族が抱える問題をユーモラスに、かつ、あたたかく描き出していく。

 子どもができないことに葛藤する妻の姿を描いた「虫歯とピアニスト」。同期との昇進レースに敗れ、気分は隠居モードの会社員を描いた「正雄の秋」。16歳になったのを機に、初めて実の父親に会いにいく女子高生の姿を描く「アンナの十二月」。母親が急逝し、憔悴した父親を支えるべく実家暮らしを再開する「手紙に乗せて」。産休中なのに、隣の謎めいた夫婦が気になって仕方がない「妊婦と隣人」。突然妻が市議会議員選挙に立候補すると言い出した小説家の心中を描き出す「妻と選挙」…。6つの短編は、どの物語も、決して他人事ではない。身近すぎる家族の事情ばかりがありありと描き出されているのだ。

 たとえば、「手紙に乗せて」は、ことあるごとに何度でも読み直したい作品だ。53歳で突然母親を亡くした主人公・亨。彼の父親が受けたダメージは思いの外強く、テレビドラマで同世代の夫婦が出てきただけで涙を流すなど、悲嘆に暮れていた。食が細ってきた父親を心配する亨。だが、亨の同期は、亨の母親が亡くなったという事実に無頓着。一方で、亨の上司の石田は、直接のかかわりがないのに、亨の父親を心配する。なんでも、石田には妻を亡くした経験があるのだそうだ。

「君のおとうさんに手紙を書いた。出過ぎた真似かもしれないが、ぼくは経験者だ。必ず役に立てると思う」

 人生経験とは、きっと悲しみの経験のことなのだろう。家族の中での悲しみと周囲とのギャップに苦しめられるなかで差し伸べられるあたたかな手。家族の外側にいる人間の存在に、身内の抱えている思いを教えられる。

 笑って泣いて読後はほっこり。心が晴れわたるこの家族小説は、人生のあらゆるステージにおける問題にやさしく寄り添ってくれる。

文=アサトーミナミ