「たった一球のヒットで命を救われた話」…プロ野球ファンの愛が生んだ、数々のドラマ

スポーツ・科学

2018/7/9

『みんなのしあわせになるプロ野球』(カネシゲタカシ/講談社)

 社会人たるもの「すべらない話」のひとつやふたつ持っていたいもの。とはいえ、どこにネタが転がっているのか見当もつかない、という人は多いのではないだろうか。そんなとき、ヒントになるのが趣味やライフワークに関する出来事に目を向けること。

 その一例として、プロ野球のネタを取り上げてみよう。『みんなのしあわせになるプロ野球』(カネシゲタカシ/講談社)は、一般のプロ野球ファンから寄せられたエピソードを、泣ける話・笑える話に振り分けてまとめた一冊だ。

 以下に、本書に収録されているエピソードを紹介したい。ちなみに、これらは著者の漫画家・カネシゲタカシ氏が主宰するツイッターアカウント「野球大喜利」で募集されたもので、すべて投稿者たちの実話である。

泣ける話05「もう一度、球場に行きたい――たった一本のヒットに救われた話」――匿名希望(20代・男性)

 両親が営む地方の個人商店を継いだ投稿者。働き詰めの毎日を過ごしていたある日、近所の人から横浜DeNAベイスターズのオープン戦のチケットをもらい、人生初の野球観戦へ。これを機に、投稿者は大のベイスターズファンとなる。

 月日は流れ、共同経営者だった母親が急死。それまでギリギリの状態で商店をやりくりしてきた投稿者は、店を閉めること余儀なくされる。母親と店を失い、自殺を考えるほど憔悴した投稿者……。すると音量が最小になっていたテレビから、小さな小さな「割れんばかりの歓声」が。9回裏、2点差を付けられていたベイスターズが、石川雄洋選手の右中間へのタイムリーヒットでサヨナラ勝ちを決めた瞬間だった。人生最悪の日に少しだけ笑うことができた投稿者は、ふと思う――もう一度、球場に行きたい、と。たった一本のヒットと割れんばかりの声援が、人の命を救ったのだ。投稿者は、今日もなんとか生きている。いつかベイスターズに恩返しができるように。

笑える話04「それが今の嫁です」――竹内くま彦(30代・男性)

 中日ドラゴンズファンの投稿者は、野球に疎い彼女に、中日のレジェンド・山本昌選手の魅力を押し付けにならないように気を付けながら伝えていた。これは、彼女を野球好きにしたいという想いがあったからなのだが、普段の雑談は野球以外の話題ばかり。そんなある日、投稿者は「YMCA」と書かれた看板を見つけ、彼女に「『YMCA』って何の略?」と聞いてみた。彼女の回答は「山本・昌・中日の・エース」。そして2人は夫婦となった。

笑える話17「事実上、勝利です」――やまだしょてん(40代・男性)

 プロ野球のことを知らない彼女を連れて、千葉マリンスタジアムへ野球観戦に行った投稿者。しかし、彼女とはすぐ破局してしまう。2年後――投稿者は、スタジアムのライトスタンドで西岡剛選手のユニフォームを着た元カノの姿を発見。「事実上、勝利」と綴る投稿者の満足げな表情を描いたイラストが笑いを誘う。

 本書には、たとえプロ野球をよく知らない人でも胸を打たれたり、クスッと笑えたりするエピソードが計77本収録されている。打ち明けると私自身、プロ野球には詳しくないが、読むほど本書に引き込まれていた。要するに、自分の趣味の話題は共通の趣味を持っている人にしか響かない、というのは思い込みなのだ。なんてことない日常の中に「すべらない話」のネタはいくらでも転がっている。

文=上原純(Office Ti+)