8月17日全国公開の映画『ペンギン・ハイウェイ』原作は、森見登美彦屈指の感動作だ

文芸・カルチャー

2018/8/17

『ペンギン・ハイウェイ』(森見登美彦/角川書店)

 長編アニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』(石田祐康監督)が、8月17日の全国公開に先立って、カナダ・モントリオールのファンタジア国際映画祭で最優秀アニメーション賞にあたる今敏賞(長編部門)を受賞したという嬉しいニュースが飛び込んできた。

『ペンギン・ハイウェイ』は当代の人気作家・森見登美彦が2010年に発表した同名小説が原作。今回の報道を受け、この不思議なタイトルの作品にあらためて興味を抱いた人も多いと思うので、原作のストーリーと魅力を紹介しておきたい。

 主人公の「アオヤマ君」は物知りで、何事にも研究熱心な小学4年生の男の子。彼の住む郊外の街に、ペンギンが大量発生するという奇妙な事件が起こった。しかもペンギンたちはトラックで運ばれてゆく途中、忽然と姿を消してしまったという。街ではその後もペンギン出現が相次ぎ、アオヤマ君はさっそく「ペンギン・ハイウェイ」と題した研究ノートをつけ始める。ペンギン・ハイウェイとは、ペンギンが海から陸に上がってくるときに辿る道のことだ。

 そんなある日、歯科医院で働く「お姉さん」がアオヤマ君の乳歯を抜くため、コーラの缶を放り投げたところ、ペンギンに変身しよちよちと歩き出した。どうやらペンギン出現には、アオヤマ君の憧れの人でもあるお姉さんが関わっているらしい。お姉さんは言う。

「この謎を解いてごらん。どうだ、君にはできるか」。

 実験をくり返し、ペンギン出現のメカニズムに挑むアオヤマ君。しかしなかなか思うようにペンギンは出現しない。一方その頃、森に囲まれた草原には、〈海〉と名づけられた球体が発生していた。

 森見登美彦の小説らしく、味のあるキャラクターとユーモラスなセリフの掛け合いが魅力だ。小さな街で巻き起こった一夏の珍事件がキュートに、しかもみずみずしく描かれてゆく。

 ストーリーの背後に見え隠れするのは、この宇宙の成り立ちに関わるような壮大な世界観。アオヤマ君とミステリアスなお姉さんとの交友を追った本作は、良質のSFでもあるのだ(本作は第31回日本SF大賞を受賞している)。

 作中、宇宙についてアオヤマ君と語ったクラスメイトのウチダ君は、こんなセリフを口にする。

「……こういうことを考えていると、ぼくは頭の奥がつーんとするんだ。それで、何かぐるぐるした感じがする」。

 この「頭の奥がつーんとする」という感覚こそ、『ペンギン・ハイウェイ』最大の魅力だと思う。世界がこうして存在していることへの驚き。センス・オブ・ワンダー。大人になると失われてしまう感覚を、わたしたちは「科学の子」アオヤマ君の研究を通して取り戻すことができる。それは貴重で、忘れられない読書経験である。

 男の子・夏休み・そしてSFという黄金のトライアングルが織りなす、森見ワールド屈指の感動作。この機会にぜひ楽しんでほしい。

文=朝宮運河