子どもができない共働き夫婦、シングルマザー、家族の絆。江戸幕末の寄席が舞台の「人情物」

文芸・カルチャー

2018/9/5

『すててこ 寄席品川清洲亭 二』(奥山景布子/集英社)

『すててこ 寄席品川清洲亭 二』(奥山景布子/集英社)は、幕末の品川で、念願の「寄席」を開業した不器用な大工の秀八(ひではち)が、恋女房のおえいや周囲の人々に支えられ、慣れない席亭(経営者)として奮闘する、人情たっぷりの時代小説である。

 本作ほど「人情物」という言葉が似合う小説もないのでは……と感じ入ってしまうくらい、「人の情けが身に染みる」物語だった。

 ただ、決して秀八が一方的に助けられるわけではなく、あくまで「助け合い」なのが、読んでいて心地よい。「いかにも」な、お涙頂戴の展開ではない。イマドキの人が違和感を持つような、時代小説のイヤな古臭さもなく、生活の中でごく自然に、登場人物たちが支え合い、笑ったり、泣いたり……そういう様子が、なんとも「粋」だった。

 前作で、秀八は慣れないながらも無事に寄席「清洲亭」を開業する。勘当された実兄で、今は道を外れた無頼者の千太(せんた)の妨害に遭ったりもしたが、思わぬ助け舟によって事なきを得た。

 最新刊では、「清洲亭」も軌道に乗り、常連のお客や高座に出てくれる落語家も少しずつ増えていく。順風満帆かと思いきや、そうはいかない。

 清洲亭に幽霊(?)が出没したり、その幽霊がきっかけで、常連の真打・弁慶の知られざる過去が明らかになったり、三味線弾きのおふみに、別れた亭主が強引に復縁を持ちかけたり、美形の女義太夫が乗り込んで来たりと、様々なハプニングが起こる。

 寄席の経営者――席亭は、濃やかな気遣いと機知を以て、芸人たちが心安く高座に上がれるよう、万事気を回していなければならない。だが、そういう小回りの利く人間ではない秀八は、おえいの機転や、穏やかで博学だが、ワケアリの浪人・弁良坊、常連客の書物問屋のご隠居など、多くの人たちに支えられ、あらゆる問題を乗り越えていく。

 しかし、一番の「支え」であったおえいが、体調を崩して倒れてしまう。同時に、無頼者の兄の魔の手が、再び清洲亭に迫って――

 シリーズものは、1巻が一番面白くて、徐々に魅力が小さくなってしまう、ありていに言えば「飽きてしまう」作品もあったりする。

 だが本作は、そうはならないだろう。今後の展開に関わってくる伏線も、小さなものから大きなものまで張られ、ますます続きが気になっている。噛めば噛むほど味が出てくる作品だと感じた。

「飽きない」大きな理由は、登場人物たちの魅力だ。

 秀八とおえいは、駆け落ちをした共働きの夫婦。仲はいいが、2人には子どもができず、半ば諦めている。三味線弾きのおふみはシングルマザー。秀八の弟子の留吉には、ボケてしまった母親がいたり……と、それぞれが現代にも通ずる悩みを抱えている。

 さらに、秀八の兄・千太も、ただ単純に主人公たちの障害となる「悪者」ではない。秀八が兄に対して抱く「憧れ」――母親に愛されている――のようなものを、千太も秀八に感じているのではないだろうか……と、実は2巻で一番感動したのは、千太の本心が垣間見える瞬間だったりする。

 時代小説なのに、登場人物たちを身近に感じて、自分もこういう風に支えてもらえたら、もしくは、支え合える人たちがいたらと、少し羨ましい気持ちにもなったりする本作。イマドキ流行らないのかもしれないけれど、やっぱり「人情」は、いい。

文=雨野裾