学園青春ミステリーファン必読! 王道の設定&新しい展開の『自意識過剰探偵の事件簿』

文芸・カルチャー

2019/1/28

※「ライトに文芸はじめませんか? 2019年 レビューキャンペーン」対象作品

『自意識過剰探偵の事件簿』(真摯夜紳士/一二三書房)

 なんでもない日常が事件現場へと変貌、たまたまそこに居合わせた自分が、持ち前の洞察力を武器に、巧妙なトリックを鮮やかに暴く。ミステリー好きなら、ちょっとくらいは夢見てしまうシチュエーションだ。けれど現実に、物語のようなことがそうそう起こるはずがない。高校生にもなったなら、推理小説と現実の区別くらいはついている。……ごく一部の人間をのぞいては。

『自意識過剰探偵の事件簿』(真摯夜紳士/一二三書房)の主人公・明義(あきよし)は、そんな「ごく一部の人間」に悩まされている高校生だ。彼の幼馴染、推理小説ファンの雲雀野(ひばりの)には、厄介な“探偵癖”がある。みずからを探偵だと主張し、事件を求めて校内をさまよい、なんの根拠も論拠もなく、無関係な他人に「犯人は、あなただっ!」と言い放つのだ。その尻拭いをするのは、彼女に助手役を仰せつかった明義。

 ただ彼は、雲雀野に振り回されながら考えていることがある。彼女は事件を愛するあまり、どうも他人を疑いすぎる。クラスメイトだって、犯してもいない罪のために追及を受けていてはたまらない。幼いころから繰り返してきた探偵ごっこの結果として、雲雀野は疎まれることに慣れ、他人との距離が開いていき、ついには“助手役”が必要になるほど周囲とコミュニケーションが取れなくなった。つまりは、人間不信に陥っているのだ。

 人間不信はいずれ乗り越えなくてはならない。そのためにも、幼馴染である自分が、彼女の“探偵癖”をやめさせなければ──明義がそう思っている一方で、雲雀野はやっぱり「事件」を見つけてきてしまう。

「明義、難事件よ!?」。昼休み、彼女が明義を引っ張っていったのは、生徒2人がひと晩閉じ込められるという“監禁事件”が起こった体育倉庫。生徒たちは無事助け出されたが、雲雀野は「犯人が捕まってない」と息巻いている。ところが、現場での調査中も、雲雀野は人間不信を発動。明義はさんざん迷惑を被りつつも、しゅんとした彼女を見ていられず、授業中、気が遠くなるような試行錯誤に手を出すはめになる。

 考えろ。
 誰を『犯人』に仕立てあげれば収拾がつき、どのような『動機』が共感しやすいのかを考え、如何様にして『トリック』を労したのか掘り下げる。
 言うなれば、それは虚構の産物。推測の域を出ず、妄想にしか過ぎない……だがしかし、俺が求めている答えは真実じゃない。(※太字部分は傍点あり)

「真実なんてのは、いつだって残酷なんだ。(中略)知らなくて済むなら、それに越したことはないだろ」。明義が言うように、たしかに現実さえ知らなければ、今でも名探偵になりたいという夢を見ていられたかもしれない。諦めなくてよかったこともあるし、いい関係を保てた相手もいる。けれど人は、おそらく現実という名の痛みを知ることで、大人になっていくのだろう。だからこそ、まさにその狭間にいる明義と雲雀野がまぶしく見える。

 学園ミステリー、青春もののツボは押さえつつ新しい展開を見せる物語は、若い才能を感じさせる。名探偵に憧れている人も、かつて名探偵に憧れた人も、爽やかな気持ちで楽しめる一冊だ。

文=三田ゆき

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