「あなたはもう少し無責任になっても大丈夫!」しんどいと悩むあなた向けの処世術

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更新日:2019/5/7

『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン:著、吉川南:訳/ワニブックス)

「いつからこんなにつまらない自分になってしまったんだろう」…そうした思いに駆られる機会は、大人になるにつれ増えているように思う。子ども時代の自分は無敵で、何者にもなれるような気がしていた。テレビで悪役を倒すかっこいいヒーローや煌びやかな衣装に身を包むアイドルは、今よりもずっと身近な存在だった。それなのに、私たちは現実の退屈さと厳しさをひしひしと感じ、何者でもない“ただの大人”になってしまった。そして、他人と自分を比較しながらも、大人ぶって混沌とした世界に必死でしがみついている。そんな“何者にもなれなかった自分”が嫌いだと思っている方もきっといるだろう。

 しかし、『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン:著、吉川南:訳/ワニブックス)の文章に触れると、何者にもならずに自分として生きてこられたことを、少し褒めてあげたくなるはずだ。

 本作は韓国で60万部を突破したベストセラー本。作中に記されている、世界にたったひとりしかいない“自分”を大切にしていくための70の心得は、韓国の若者たちの心を大いに刺激した。

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 ごく平凡な私たちは、残念ながら世界をあっと驚かせるような才能も持ち合わせていない。しかし、だからといって無価値な人間ではないのだ。

“冷たい世の中で、何も間違っていない自分を責めている私と同じようなみんなに、こう伝えたい。あなたは何も間違っていないよ。あなたらしく、胸を張って生きていけばいいんだよ”

 著者のこの言葉に心を揺さぶられた方は、ぜひ本作を通して、“たったひとりの私”として生き続けていることの素晴らしさを噛みしめてみてほしい。

■自分から進んでみじめになるのは、もうやめよう!

「インスタ映え」などが話題になる近年は、煌びやかな私生活を発信するインフルエンサーに興味が湧いてしまう。美人でスタイルもよく、お金も持っている「インスタセレブ」の日常をチェックすることが毎日の日課になっている方もいるだろう。しかし、他人の暮らしを簡単に覗き見できる時代だからこそ、他人への「好奇心」が大きな代償を呼び寄せてしまうこともある。

 例えば、自分と年齢が変わらない「インスタセレブ」を目の当たりにすると、平凡な自分がとてもみじめに思えてしまうこともあるのではないだろうか。他人の私生活を見物するという行為は、“みじめさ”という代償を心に刻む。私たちは、知らず知らずのうちに自ら大きな代償を背負ってしまっているのだ。

 人の人生はたった数枚の写真で語りきれるほど簡単なものではないということを心に留めておいてほしい。これまでに自分が刻んできた平凡で退屈な日々にも、オンリーワンの価値がある。だからこそ、著者のキムさんは読者にこんな言葉を送る。

“あなたの好奇心やエネルギーは、あなた自身の人生をよくするために使った方がいい。だから、他人の人生に直接関わりを持つならともかく、観客になるのはやめよう。”

 自分の人生には自分にしかわからない困難や苦悩があるはず。そうしたことを乗り越えて、今ここに存在しているという事実がある。それだけでも、私たちの人生にはそれぞれかけがえのない価値があるといえる。人生の価値は、お金や地位、名声だけでは計ることができないのだ。

■頑張り過ぎてしんどい…と感じたときには?

“私たちは、黙っていたらお払い箱になるような世の中で生きているので、どんなことでも必死でやらなきゃいけないと思って汗をかき、そうやって安心感を得ている”

 そう語るキムさんの想いに共感を寄せる方は多いはず。私たちは、予想もしなかったトラブルが人生に降りかかってきても、必死にもがき生きようとしている。真面目で頑張り屋な人ならなおさらだろう。

 しかし、耐え難い犠牲に対して無理をしても耐えようとするのは、自分を虐待しているのと同じことだと、キムさんは指摘する。自分で自分をいじめてしまうと、心が窒息してしまう。苦しいと感じる自分を放っておかず、時には歩みを止める勇気も大切だ。自分のことは、自分が大切に守ってあげなければならない。

“もう少し自己中心的になっても、もう少し無責任になっても大丈夫。”

 現在いっぱいいっぱいだと感じて日々を送っている方は、ぜひこの一節をお守り代わりにして、心に抱えた荷物を減らしてみてはどうだろう。

 人生には思い通りにならないことも多い。ごく平凡な私たちは、世の中の冷酷さに傷つき、孤立感や寂しさの中に取り残されてしまうこともある。だが、「こんな普通な私も悪くないじゃん」と思うことができたら、もっと自由に人生を謳歌できるようになるはず。何者でもない私たちは、あえて何者かになる必要はないのだ。

文=古川諭香