ストリッパーを辞め、札幌で店を営む。泥臭さとかっこよさが全編に流れる大人の小説『裸の華』

文芸・カルチャー

更新日:2019/6/3

『裸の華』(桜木紫乃/集英社)

 ついさっきまでオーダーを取ってお酒を運んでいた女性が、ショータイムになった途端、ステージで踊り出す。そして汗を拭って、何食わぬ顔で戻ってくる。私はそういうお店に行くのが大好きだ。きっと、踊りたくてここで働いているのだろう。この体に手足が付いていることがうれしくてたまらない! そんな気持ちが伝わって、こちらの手足までムズムズしてくるのだ。

 もっと、ずっと、踊っていたいのだろう。それでも、与えられた仕事をきっちりとこなす。踊ることを人生の中心とするストイックさは、何をしていたってにじみ出る。

『裸の華』(桜木紫乃/集英社)の主人公で元ストリッパーのノリカが、初舞台を踏んだ札幌に戻り、若い女性ダンサーふたりとバーテンダーを雇って、ダンスシアター「NORIKA」を開いた。ステージで大怪我をしたまま、復帰できずに廃業した彼女は、自分が踊るのではなく、踊れるダンサーを育てる生き方を見つけたのだ。

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 しかし「脚が上がらなくなったらおしまいだ」と、現役時代と変わらぬストレッチを欠かさない。傷はもう癒えている。ただ、元のように踊るには、強い恐怖心が邪魔をした。

 それでも、ノリカのダンスを見たいと願う人がいる限り、彼女はそれに引っ張られるように、ステージに呼び戻される。どうしたって、踊ることからは離れられない人生なのだ。

 全国のストリップ小屋を巡業する、孤独で身軽な生き方をしてきた踊り子は、流されることの正しさを体で知っている。そして、うまく流されていくために、誰にも何にもしがみつこうとしない。誰かを引き留めることもしない代わりに、誰かが彼女を引き留めることもできないのだった。

 そんな彼女を支えたのが、寡黙なバーテンダーのJINである。彼は重たい過去から逃げるように、札幌へ流れ着いていた。バーテンダーとしての腕前だけでも、ただ者ではないことが明らかだったが、ノリカは尋ねない。そんな彼女だから、JINも側でくつろぐことができたのだ。

「NORIKA」が軌道に乗り始めると、JINが用意する一杯を閉店後に飲むのが習慣になった。体のラインを気にするダンサーには、カクテルのベースにウイスキーを使う。「ブラックニッカ ディープブレンド ナイトクルーズ」を仕入れた彼は、まずロックで味を見て、思わず壁に飾った曰く付きのシャガールを眺めるだろう。海の向こうで笑う、懐かしいあの人に思いを馳せて。

文=新井見枝香

【ダ・ヴィンチニュース編集部/PR】