爺婆が若返る「桃太郎」、やたらマッチョなウサギの「かちかち山」――300年前のおとぎ話

文芸・カルチャー

2019/7/28

『江戸の子どもの絵本: 三〇〇年前の読書世界にタイムトラベル!』(叢の会/文学通信)

 300年前の子どもたちはいったいどんな本を読んでいたのだろう? 『江戸の子どもの絵本: 三〇〇年前の読書世界にタイムトラベル!』(叢の会/文学通信)は、時代をこえた子どもたちの「読書」について考えるきっかけを与えてくれる一書だ。

 本書には、江戸時代の絵入り本の中でも、中期から後期にかけて子ども向けの御伽物として数多く刊行された「赤本」などから、代表的な作品が4編収録されている。まずはド定番の『桃太郎昔語』、桃太郎と並ぶ少年ヒーロー「金太郎」の初期型ともいえる『きんときおさなだち』、口承民話のかちかち山を絵本化した『兎大手柄』、そして当時の寺子屋に通う子どもたちの様子を描いた『寺子短歌』である。

 解説によれば、赤本はそもそも、正月のお年玉として子どもたちにあげる縁起物だったそうだが、内容は大人向けのものも含まれていたという。躍動感ある絵を中心に、登場人物のセリフが余白に書き込まれているところや、読者の対象年齢が幅広いところなど、現代でいうところのいわゆる“絵本”というよりは、まんがに近いものなのかもしれないと実際に収録作品を眺めていて感じた。

 その中でも、個人的に楽しかったのは『寺子短歌』だ。これは赤本ではなく、もう少し年齢層高めの読者を想定した黒本・青本と呼ばれるものの一作。ほかの3編とは少し趣が異なっていて、実際に赤本の読者であった江戸時代の子どもたちがどんなふうに寺子屋での日々を過ごしていたかを知る手がかりになる作品だ。といっても、真面目に勉強している様子ばかりが描かれているわけではない。先生のいないあいだに机に乗って芝居のまねごとをしていたり、衝立の陰でどら焼きをぱくついていたりと、江戸の子どもたちのいかにも子どもらしい生き生きとした姿が描かれているのだ。このほか、『兎大手柄』(かちかち山)のウサギの絵がやたらマッチョなところもぜひ注目していただきたいポイントだ。

 巻末には、関連資料として、「桃太郎」「金太郎」「かちかち山」それぞれの明治・昭和期の児童文学作品が収められている。各作品、赤本での物語と少しずつ違うところがあり、読み比べてみるとなかなか興味深い。

 たとえば「桃太郎」の生まれ方。赤本では、桃を食べた爺婆が若返って子をなし、桃太郎と名付ける回春譚が語られており、巻末資料の巌谷小波版では、現在知られている桃から直接子どもが生まれる果生譚が採用されている。

 今日、わたしたちがよく知っているはずのおとぎ話でも、時代によってディテールやパターンの違いがあることを知ることで、子どもに実際に読み聞かせをする際の本の選び方や語り方も変わってくるのではないだろうか。大人自身がもっと興味を持って、子どもと本との関わりに目を向けるためのひとつの視点を本書は与えてくれる。

文=本宮丈子