メキシコ麻薬戦争を描く、ドン・ウィンズロウ畢生の三部作『ザ・ボーダー』、ついに完結!

文芸・カルチャー

2019/8/10

『ザ・ボーダー』(ドン・ウィンズロウ:著、田口俊樹:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 1975年からの30年に及ぶ、アメリカ麻薬取締局のアート・ケラーとメキシコ麻薬カルテルの戦いを描いた『犬の力』(角川文庫)。そこで一旦は逮捕したはずの麻薬王アダン・バレーラが脱獄し、悲惨な戦争へとなだれ込む10年を描いた『ザ・カルテル』(同)。日本でも圧倒的な支持を得たシリーズである。そしてついに、完結編となる『ザ・ボーダー』(ドン・ウィンズロウ:著、田口俊樹:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)のお目見えだ。

 物語の始まりは2012年。メキシコ麻薬王として君臨してきたアダン・バレーラが消息を絶って以降、メキシコでは束の間の(見せかけではあるが)平和な日々が続いていた。しかしその平和は、突然終りを告げる。アダンの〈息子たち〉が後継争いと縄張り争いを始めたのだ。麻薬取締局の局長に就任したケラーは、三たび、麻薬カルテルとの戦いに身を投じることになる──。

 前二作同様、幾つものストリームが重層的に物語を構成していく。アダンの〈息子たち〉という第三世代の争い。前作で刑務所に収監された麻薬商人エディ・ルイスの獄中での策略。元麻薬王ラファエル・カーロの暗躍。前作に無敵の殺し屋として登場した少年・チュイのその後。アメリカ国内でのドラッグ汚染の描写もリアルだ。さらに本書では、密入国を企てる少年の物語と、麻薬商人に近づく囮捜査官の苦悩がここに加わる。

 すべての流れが絡み合って怒涛の展開になる様は、まさに圧巻。特に本書で注目いただきたいのは、作中時間の中でアメリカ大統領選が行われるくだりだ。メキシコとの国境に壁を作るなどと発言したジョン・デニスンが当選する。もちろんドナルド・トランプがモデルだ。ケラーはその政権を真っ向から批判し、自らの40年を総括することで、アメリカの膿をえぐり出していく。

 前作『ザ・カルテル』である人物が残した手記をご記憶の方も多いだろう。麻薬は売る人や買う人だけの問題ではない。そんな社会を許し、無関心でいるあなたこそカルテルなのだと糾弾した手記だ。その志が本書にも受け継がれている。物語終盤に用意された、ケラーの「総括」を、どうかじっくり味わっていただきたい。

 物語は三部作で幕を閉じたが、ケラーとウィンズロウが訴えた問題は、今日に至るまで解決されてはいない。これからどうする、と、彼らは読者に問い続けているのである。

文=大矢博子

【イベント情報】
ドン・ウィンズロウの『ザ・ボーダー』発売記念イベント(有料)が下記にて行われます。
日時 8/23(金)19:00-20:00
場所 蔦屋書店代官山
ゲスト 田口俊樹氏(翻訳)×杉江松恋氏(解説)
詳細は以下よりご確認ください。
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