契約結婚夫婦ふたたび!? 大反響のW身代わり中華ファンタジー『後宮の花は偽りを散らす』

文芸・カルチャー

2019/8/17

『後宮の花は偽りを散らす』(天城智尋/双葉社)

 生きている限り、「望みがすべて叶って安泰だ」とはならないのかもしれないと思う。幼いころは、退屈な昼寝の時間よ早く終われと願っていた。高校生のときは、受験さえ終わってしまえば花の大学生活だと信じていた。そして大人になった今、このヤマを越えるまでの辛抱だと、大きな案件を抱えるたびに喘いでいる。

 もしかすると、『後宮の花は偽りを散らす』(天城智尋/双葉社)の主人公も、そんな人生を送っているひとりなのかもしれない。

 大陸西方に位置する相国。その首都で官吏として働く陶蓮珠(とう・れんじゅ)は、周囲の同僚に「遠慮がない・色気がない・可愛げがないの三ない女官吏」と評されるバリキャリ女官だ。蓮珠は、生まれが国境付近であったため、5年ほど前まで敵国であった隣国・威の言葉がわかる。そんな蓮珠の能力が、ある男の目に留まったらしい。武官姿の彼は、威国語を解する独身女性を探していて、蓮珠を自分の嫁に欲しいと言う。彼の名は郭翔央(かく・しょうおう)──威国の公主を娶るはずの新皇帝の、双子の弟だった。

 翔央いわく、新皇帝は、帝位争いから自分と妃を守るため、嫁いで威妃(いひ)となる予定だった公主と二人で駆け落ちしてしまったという。が、長く相国と争っていた威から見れば、「新皇帝が公主を拉致して行方をくらました」ということにもなりかねない。ともすれば、この国をふたたび戦禍に巻き込んでしまう状況だ。そこで翔央が提案したのは、彼と蓮珠で、新皇帝と威妃の身代わりを務めること。つまりはW身代わりの契約結婚だった!

 そんな騒動から数ヶ月──新皇帝と威妃は無事戻り、蓮珠は憧れの上級官吏として忙しく働いていた。目下の課題は、威妃の立后式を成功させることだ。そんなある日、宮城に殴り込みをかけてくる者があった。槍を携えた華やかな顔立ちの少女は、威国十五番目の公主・黒公主。姉の立后式に列席するためにやってきたという。

 蓮珠は急遽、通訳もできる官吏としてこのおてんば姫の世話に当たることになるのだが、この仕事には裏があった。新皇帝が蓮珠に下した命は、「後宮に潜入して、威が黒公主を寄越した狙いを探れ」。おまけに黒公主は、姉が相国に歓迎されていないと感ずれば、すぐにでも威国に連れ帰ると主張する。そんなことになれば、相が恥をかくだけでは済まない。また戦がはじまってしまう。蓮珠はふたたび、相国の命運を賭け、さまざまな偽りをまとうことになるのだが……。

 仕事が大きくなるにつれ、個人は歯車の一部になり、身体の距離が近づくほどに、見えない心に惑わされる。だがそれは、苦難の山をひとつ越えたなら、さらに広い景色が開けるからだ。個人と国家、信念と立場、真実と偽り──ふたつのあいだで揺れ動くことで、人は自分の軸を見出す。ともに行く道連れを得る。また新たな目的地を指し、進んでゆくことができる。

 緊迫の諜報、すれ違う翔央と蓮珠の想いに夢中になれる、大反響の中華ファンタジー「後宮の花」シリーズの第2弾。華やかながらも骨太な物語の世界に、たっぷりと浸ってほしい。

文=三田ゆき