“慰留ハラスメント”で会社を辞められない…労働者の最後の救い「退職代行」の実際

ビジネス

2019/11/4

『退職代行(SB新書)』(小澤亜季子/SBクリエイティブ)

「退職代行」の文字をしばしば見るようになった。退職を決めた本人は、それまでに思い悩んだり、退職するための情報を集めたりして相当なエネルギーを使っている。会社側からすれば勝手な言い分かもしれないが、退職したい側からすれば、会社に退職の旨を伝えることは、最後の大仕事だ。ここで会社に頑として拒否されれば、それを覆すエネルギーが残っていない人がいて当然であるのは、退職を経験、あるいは本気で考えたことがある人ならわかるかもしれない。

 退職代行は、そういった人たちが退職を成就するための、最後の砦だといえる。退職代行の実際はどうなっているのか。『退職代行(SB新書)』(小澤亜季子/SBクリエイティブ)は、賛否両論あるこのサービスの事実を報告してくれている。

 本書は、退職代行サービスにも注力する弁護士が執筆している。著者は、なぜ退職代行を安くもない費用を払ってまで業者に依頼するのか、当初は不思議に思っていたそうだ。法律に、労働者が自由に会社を辞められることが明記されているからだ。

民法627条第1項

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

 そうはいっても、実際に退職代行サービスは求められている。背景には、2つの要因があるようだ。1つ目は、深刻な人手不足であること。本書によると、ここ10年で「自己都合退職」に関する労働局や労働基準監督署に寄せられる相談は2.5倍に増えている。人手不足の会社の中では、時に強引な引き止めをする、高圧的な態度で脅す、怒鳴る、暴力をふるうなどをする“慰留ハラスメント”が起きる。そして、いわゆるブラック企業ほど、人手不足から慰留ハラスメントを起こしやすい。会社を辞めたいが辞められない。そんな人たちが相談件数を押し上げていることが読み取れる。

 2つ目の背景は、日本人の気質だ。退職代行サービスを求める人たちを「自分の退職を人任せにするなんて…」と無責任に思うだろうか。本書は、それを誤った先入観だとする。退職代行サービスに相談を寄せる人たちは、基本的に誠実な人だという。考えてみれば、無責任な人ならば、会社を“バックレ”てしまえばいい。それができない人たちが、退職代行サービスを求める。しかも、その数は少なくない。日本人の生真面目な性格が、退職代行サービスへのニーズに繋がっている。

 さて、著者が行っている退職代行サービスの実際は、どのようになっているのだろうか。本書は、赤裸々に記している。金額は6万5000円。相手の会社に書類を送るための特殊な郵便料金など実費を含んだ金額だ。相談が多いのは、ゴールデンウィークなど連休明けや、月曜日。月末、年末、年度末などの区切りのよい時期も多い。また、月末から2週間ほどさかのぼった月中旬も多い。相談者の男女比は、男性が2に対して女性が1。20代から40代が多く、全体の約75パーセントが正社員だという。

 ところで、本書は警鐘も鳴らしている。それは、非弁護士による退職代行だ。近年、弁護士ではない退職代行業者が増えてきているそうだが、そういった業者に限って、退職代行が失敗するケースが大きく分類して3パターンあるという。

 1つ目は、会社から「弁護士でないと交渉しない」と言われるパターン。非弁護士が単なる伝言の域を超えて退職に関する交渉をすることは違法だそうだ。2つ目は、会社に反論できずに失敗するパターン。退職代行を使って退職の申入れをされた会社は、時に法律を駆使した対応に乗り出す。このとき、法律の知識がない業者では太刀打ちできない。3つ目は、不利な内容の退職時誓約書にサインを求められて失敗するパターン。これは、退職自体は成し遂げられるのだが、退職時誓約書を提出しなくても退職が成立することを知らない業者が不利な内容にもかかわらず提出を勧め、退職後の仕事に支障が出ることがある、という。

 ちなみに、原則、会社の合意なしに即日退職はできないのだが、非弁護士の退職代行業者の中には「即日退職OK」「全額返金保証」などと相談者を安心させる文言を提示している場合があり、注意が必要だと本書は述べている。

 本書は、「仕事は自分の代わりにできる人がいるが、自分の命や健康、大切な家族やかけがえのない友人との時間を守れる人に代わりはいない」「会社を辞めたいと嘆きながら働き続けたところで自分の才能は生かせないし、成長しにくい」などと、退職代行サービスへの相談を考えている人にエールを送っている。

文=ルートつつみ